【深淵の呪術】第7話 シャルロット
ギルドに登録した冒険者なら「申し込むことはできる」と言うので、手続きだけして「ギルドの返事を待つ」ことにする。
ギルド長が、受付係の女に「良い宿を紹介してやれ」と指示を出してくれた。
辺境伯領の首都・ヤクトの町から来た代官のおかげで、ヤクトの町との流通が盛んになったファルジの町は、商人や旅人がたくさん流れ込むようになった。便利な品や流行の品が入ってくる反面、無知な旅人に高額な要求をする悪質な宿も増えたと言う。
「レイドリク伯の紹介状をお持ちの方に、この町で嫌な思いをさせたら大変ですから」
レイドリク伯は、戦上手と評価される一方で、敵に対する残酷さも有名だ。受付係の言葉が、皮肉か、素直に敬意を表したのかはわからないところだ。
冒険者の間で評価の高い宿が、受付係が家に帰る方向にあるからと道案内してくれることになった。
「申し遅れました。あたしはシャルロットと申します」
まだ二十歳に届かない、若干幼さの残る顔立ちだ。亡くなった父親が、元冒険者だったツテで「ギルドの受付」の仕事に就いたと言う。
「あんたの父親もファルージュの森で消息を絶ったのかい?」
「あははは、全然違いますよ。冒険者を引退してから好き勝手にやって、挙げ句に愛人のところで腹上死です。いっそ行方不明になってくれていたら、あたしもお母ちゃんもずっと楽でしたね」
受付係は明るく笑い飛ばしているが、聞いているわたしが笑える話ではないぞ。
「あ……ああ、苦労したんだね」
「あたしはね、絶対に冒険者を旦那には選びません。お父ちゃんが、あんなだったし。それに、受付やってると色んな話が入ってくるんですよ。町の冒険者なんて似たり寄ったりです」
まあ、ならず者がそのまま開き直って「冒険者」を名乗ってる町もあるからな。冒険者と結婚したくないとの気持ちには同意する。
「でもね。言い寄ってくるのは、冒険者だけなんですよ。他の男連中とは出会いの機会がないし……機会があっても、冒険者どもが腕っ節で脅して遠ざけちゃう。本当に、最低ですよ。冒険者の男って」
赤みがかった金髪で色白な肌、眼が大きく可愛い感じの女だから、冒険者の男どもが言い寄るのは当たり前だろう。それと、とにかく明るい娘だ。
以前、やたらと甲高い声で喋る女の話し相手をするのに閉口させられたが、シャルロットの相手は楽だ。話に相槌をうたなくても、気にせず喋り続けてくれる。
……ドーン
……ガラガラ……ガラガラ
不意に、石敷の大通りを震わせる轟音が響く。そして瓦礫が崩れる音がした。




