【深淵の呪術】第4話 言い訳?
立て看板まで戻り、矢印の方向に歩くと、直ぐに町並みが見えてきた。街道に面したところに石組みの物見塔があって、その下部が衛兵の詰め所になっているようだ。
衛兵の一人と目が合ったが、呼び止められることはなかった。検問をやっているわけではないようだ。目が合ったついでに道を訊いてみる。
「冒険者ギルドは、町のどの辺にあるんだい?」
「この大通りを真っ直ぐ進んで、3つ目の交差路を左に入るんだ。その先は、その付近で訊いてくれ」
「ああ、わかったよ」
大きな町ではない……と聞いていたが、実物はかなり立派だ。大通りも石敷で綺麗に整備されている。店の数も種類も多い。
それに驚いたのか、ノアールはキョロキョロとして落ち着かない。わたしだって面食らっているんだから、仕方ないな。
食べ物を扱っている店があったので、歩きながらでも食べられる黒パンを買って冒険者ギルドの場所を教えて貰った。
大きく目立つ建物で、このギルドは食堂も併設されていた。
これなら「黒パンを買わないで良かったか」とも思ったが、食堂からは酒の匂いが流れてきている。まだ日が高い時間帯なのに……と、ため息が漏れる。
わたしの身元確認は、以前に仕えていたレイドリク伯の紹介状で大丈夫だった。この地でも、戦上手のレイドリク伯の名前は知れ渡っている。
受付係の若い女性が「ノアールさんは、ラゲルナさんの助手ですね」と確認してきた。
「妾は、ラゲルナ様の夫です!」
ノアールの、妙な自己紹介にギルドの受付係の女性が困惑する。ノアールの身分は「助手」と言うことにして、わたしが保証人になる体裁にしているのだが……最近「夫」と言う言葉を憶えたせいで自己主張し始めた。
「ごめんよ。この娘は、この国の言語に慣れてなくてね。単語の翻訳が少し変だから、許してやっておくれ」
「まあ、異国から来られたのですね」
ノアールの黒髪と黒い眼は遙か東方の国を思わせる。「異邦人で言語に不慣れ」との言い訳に、受付係の女はあっさりと納得してくれた。
あ……この言い訳は、都合よく使えそうだ。いざとなったら、わたしも一緒に言葉が通じないフリをしよう。
「ファルージュの森の探索依頼が、ギルドに入っているはずだと聞いてきたんだ」
森の入口にいた衛兵から言われたことを、受付係に伝えてみた。
「その件なら、ギルド長が直接に説明します。少々、お待ち下さい」
受付係は、わたし達を食堂の隅の席に案内してくれる。それから「ギルド長を呼んで来ますね」と言って、建物の奥の方へ向かった。




