【深淵の呪術】第3話 脅しと煽て
「旅の者らしいな。この森に何の用があるんだ?」
何の用か……と問われても答えるのは難しいな。ちょうどノアールが、水を張った乳鉢を手に持っているから「薬草を探している」ことにでもしようか。
「この娘は薬草に詳しいんだ。珍しい薬草がありそうだと言うから、来てみたんだよ。日が落ちるまででも、薬草探しをさせて貰えないかね?」
「……ふむ」
衛兵は、ノアールが手にしている乳鉢を覗き込んだ。乳鉢に張った水の上には、薄い木片に磁石が乗せてある。その先端が、北の方角を向いていた。
「なんだ、この針は?」
「これは磁石と言って、水に浮かべると北の方角を指すのさ。おかげで道に迷わないで済むんだ」
「魔法の一種か……あんた達は、冒険者だな?」
デカい剣をぶら下げて革鎧を着込んだわたしを見たら、傭兵か冒険者のどちらかだ。磁石を魔法と思った衛兵は、ノアールを魔法使いと認識して、女二人組の冒険者と推測したのだろう。
「冒険者なら、ファルジの町の冒険者ギルドへ行ってみろ。ザックス卿の名前で、この森の探索依頼を冒険者ギルドに出してある。ギルドの方でパーティ編成をしているから、そこに選ばれれば森に入れるぞ」
「勝手に入ったらどうなるんだい?」
衛兵は、わたしの顔をジロリと見る。そんなズルは見逃さない、と言う厳格な態度で胸を張って見せた。
「許可のない者は立ち入り禁止だ。森の中には探索依頼を引き受けた冒険者が行動しているが、許可証を持っていない者を見つけたら即排除するのが規則になっている」
「即排除?」
「その場で、殺してしまえ……と言うことだ」
衛兵としては、脅しの意図もあったらしい。しかし。
顔色を変えないわたしを見て、衛兵は顔を和ませてクスリと笑う。
「俺たちも血生臭いことは勘弁して欲しいんだ。ギルドでは肝の据わった腕のいい冒険者を集めている。あんたらなら、行ってみても無駄にはならないと思うぜ」
どうやら「脅しで引かない」と判断し、即座に「煽て」に切り替えてきた。なかなかしたたかな衛兵だな。わたしの口先で丸め込める相手ではなさそうだ。
ここは、ファルージュの森と言ったっけ。
ノアールに空間を繋げさせれば、入り込むことはいつでもできる。しかし、不用意に入り込んで、衛兵の言う通りに血生臭いことになるのも面倒だ。
一旦戻って、ファルジの町で情報を集めてからにしようと思うが……問題はノアールだ。
「ノアール、その緑の服で森に入ると『服が傷むだろう』ってさ」
ノアールはハッとして、直ぐに町で仕度を調えることに同意した。




