【癒やしの聖女】第20話 二人旅
町を出て少し歩くと、直ぐに太い街道に合流した。
「そう言えば……あの町の名前も知らなかったね」
本当に小さな町だった。魔蝙蝠に出逢わなければ、歩いて通り過ぎていただろう。
ノアールは、修道女から貰った乳鉢に水を張り磁石を浮かべて方角を見ている。頭の中に「進むべき方向」が響かないようで、行き先を決めかねているようだ。
『貴女の罪は、私が購います』
わたしの頭の中には、修道女の言葉が繰り返し響いていた。
いつの間にか……修道女の視線はわたしだけに向いていたし、言葉の向ける先も「貴女方」から「貴女」になっていた。
もしかしたら、わたしの心が読まれていたのかも知れない。
ふと……北の地で『盾の乙女』になった時に、誰かに言われた言葉を思い出した。
『剣を振るう者は、その後ろで守られる者の祈りよって加護を得るのだ』
『剣を振るう者の強さは、守られる者の祈りに支えられると知れ』
守る力がないから祈り、代わりに罪を贖う⋯⋯思いはきっと同じだろう。
修道女の肌は少し浅黒い感じだったから、北の地の生まれではないだろうな。言うことが似ているのは偶然か。
ただ、修道女が本当にわたしのために祈ってくれているのなら……ほんの少し、心が軽くなったように感じた。
わたしは、間違ってはいない⋯⋯そう思っていい気がしてきた。
街道をどちらに進むか決められずにキョロキョロしているノアールに、気になっていることを訊いてみる。
「何で、その乳鉢を欲しがったんだい?」
ノアールは不死身である。手足が断ち切られても、くっ付ければ元通りになるし、無くなっても再生できる。多分、病気にもならないだろうから本当は薬草の知識なんて要らないはずだ。
磁石は旅の役に立つからいいと思うが、乳鉢と乳棒は嵩張るから邪魔に荷物になる。
「これがあれば、ラゲルナ様に直ぐに薬を作って差し上げられます!」
「え?」
「ラゲルナ様は剣使いですから、剣での傷が多いではありませんか。嫁の健康を気遣うのも夫の勤めです」
「あ……ああ。ありがとう」
なんだ……わたしのために用意したつもりだったのか?
どうやらわたしには、離れた地で祈ってくれる者よりも、ずっと近くで気遣いをしてくれるモノがいる。
相手は人外の存在ではあるが……わたしは一人では決してない。
「火の山は、向こうの方向だよ」
ノアールに温泉を体験させてやろう……そう思って、行く先はわたしが決める。
Ep 癒やしの聖女 -終-




