【癒やしの聖女】第17話 おねだり
わたしとノアールが町長の家の前に立つと、直ぐに扉が開いて見張り役二人が現れた。怪訝な顔をしているのは「死んだ」と思っていたわたし達が「生きている」ことに不安を感じたからだろう。
この二人は、この前この場所で、わたしが相手をした二人だ。わたしの強さも身にしみていたから、リーダーの首を転がした後の交渉はスムーズだった。
仲間5人分の荷物がある……と言うので『我が身をもって立ち去る』ことで手を打つ。要は「身体で背負える物だけは持って行っても構わない」と言う条件だ。
二人のならず者がいなくなると町の若者たちが、町長の家を探索して、倉庫に閉じ込められていた町長家族を救出したらしい。
それには、わたしとノアールは参加していない。ノアールが「教会に行きたい」と言い出したので、わたしはノアールを連れて教会に来たからだ。
「ありがとうございます。本来ならば、それなりの御礼をしなければならないのですが……見ての通りの荒れ果てた教会で、何の御礼も用意できません」
修道女が、深々と頭を下げる。若い男たちは、町長の家に向かったから、教会にいるのは怪我や病気で寝ている者と裏方を手伝っている女たちだけだ。
「一晩宿を貸して貰ったから、それで十分だよ」
「頂けるものがあるなら、欲しいものがあります」
遠慮したわたしのすぐ横で、ノアールの奴はおねだりしやがった。
「あの……何を差し上げたら、よろしいのでしょうか?」
ノアールの不意な要求に、修道女がオロオロし始めた。
あの、ならず者連中も冒険者を名乗っていたからな。もしかしたら無理難題を言われるかも知れない……と不安になるのはわかる。チラチラと、わたしの方に向ける視線には「助けて」の懇願が籠もっている。
ノアールが無理を言うようなら、止めないとならないな。
「チドメグサを磨り潰していた、あの器と棒が欲しいのです」
「……はあ?」
拍子抜けした修道女が、間抜けた声を漏らした。奥から乳鉢と乳棒を持って来て、それをノアールに手渡す。
手の平大の乳鉢を、左手で大事そうに受け取ったノアールは嬉しそうに微笑む。
「こんな物でよろしいのでしょうか……」
「喜んでいるようだから……いいんじゃないのかい」
唐突にノアールがこんな物を欲しがった理由は、わたしにもわからない。
とにかくノアールは、受け取った乳鉢と乳棒を柔らかい布でしっかりと包むと、ズタ袋の中へ仕舞い込んだ。
「予備の乳鉢はあるのかい?」
「はい。薬草を加工して薬を調合する道具はいくらでも」
それなら、一つ貰っても差し支えないか。




