【癒やしの聖女】第16話 罪悪感
「……!」
ノアールの視線を追いかけたリーダーは、自分の仲間が瞬時に切り刻まれるのを見て言葉を失った。
見開いた目は、バラバラになって地面に転がる「仲間だった者」から離れない。その口が、再び人の言葉を発せられるまでには暫しの間が必要だった。
「……何だ? 一体、何が起こった? 何をやったんだ!」
リーダーの顔が、脅えに歪む。わたしに打ち負かされた時にも、魔蝙蝠が舞い降りようとする時でも、こんな表情にはならなかったな。
「……何なんだ? 一体……アンタらは、何なんだ?」
大声を上げた後……虚ろな目を左右に泳がせ、そして譫言を呟くように「何なんだ」と言う科白を繰り返す。
双眸に意識が戻った途端に、再び大声を上げる。
「た……助けてくれ! もう、二度と悪事はしないと誓う……絶対……絶対だ!」
守る気のない約束ほど「絶対」と言う言葉が使われる……と憶えておくのは世渡りの知恵だ。まして性根の腐った者の口約束に、価値はない。
「頭や顔は潰さないでおくれ。町に残った奴らに『リーダーの首』だと判らせないといけないからね」
「はい。では、首の付け根辺りを斬り裂きますね」
リーダーの両目は、飛び出さんばかりに見開かれている。引き攣った唇から噛みしめた歯が覗き、噛み合わない奥歯がガチガチと小刻みな音を漏らしていた。
「こ……これからは、オレ達が町と住民を守る! 住民たちの言うことを利いて、町のために何でもやるよ……護衛も、羊の世話も、荷物運びだって……報酬なんていらねえ。絶対だ……約束する!」
必死だな……そう思うと少し憐れな気がしてくる。
……ガクン。
急に全身の力抜けて、わたしの膝が折れてへたり込んでしまった。白い靄が、わたしの周囲に輪を作っているように視えた。
……ちぃ。
わたしの心に芽生えた小さな罪悪感に、わたしに纏わり付く『呪い』が反応したらしい。周囲の魔が、その『呪い』を足がかりにして、わたしを取り込もうとしているのだ。
「ラゲルナ様!」
「大丈夫……まだ、大丈夫だよ」
あんな巨大な魔蝙蝠を生み出した森だから、きっと漂う魔も濃いのだろう。ここを離れれば大丈夫なはずだ。
(早く、この森を出よう)
土妖精のサーコートも……火の魔法は弾いてくれるけど、呪いは弾いてくれないらしい。
「ノアール、さっさと仕事を片付けておくれ」
わたしに心配そうな眼差しを向けていたノアールは、再び視線をリーダーに向けた。そして、右の鉤爪をリーダーの喉元へ突き付ける。
「やめろ! やめてくれぇー」
草むらに、リーダーの断末魔の絶叫が響いた。




