【癒やしの聖女】第12話 迎撃
魔蝙蝠は、かなりの高さにいる。炎の弾を吐き出すこともせず、ただ上空を舞っているだけだ。
おそらく、吐き出す炎の弾も届かない距離なのだろう。
「やはり、警戒されてるね」
わたしが、炎の弾を弾いたことを憶えているのだな。それとも、土妖精から貰ったサーコートが、何かしらの魔力を匂わせているか。
空にいる相手には、役にも立たない代物だが海賊の剣を抜いた。
鉄と魔は相性が悪い。弱い魔物なら鉄に触れただけで消えてしまう……あの魔蝙蝠が相手では、そうはいかないだろうが『お守り』くらいにはなる。
「うわぁぁぁぁぁ」
「逃げろ! 逃げろぉー」
「武器だ! 武器を返してくれー」
ならず者の一人が、わたしの足に縋り付こうとしたから蹴り飛ばした。そして、その場から離れる方向に歩き出す。わたしが離れれば、ならず者を襲いに降りて来るはずだ。
……大体だな。
何で「魔蝙蝠を地面近くに誘き出す」なんて手間をかけるんだ?
ノアールも飛べるんだから、空中戦でも何でもやればいいじゃないか。ノアールの方が魔蝙蝠より高く、より速く飛べるんだぞ。炎の弾が直撃したところで、次の瞬間には跡形もなく治るんだし。
まあ……あの、白と黒の翼は力加減ができないから、あれで体当たりしたら喰らう前に霧散させてしまうのか。霧散した魔は、別の依代を得たら再び魔物となるから堂々巡りするだけだ。
ノアールが喰らうしか、神に忘れ物をかえす術はない。
それに魔蝙蝠は、あの翼で飛んでいるのではなく、魔力で飛んでいるらしいから、翼を斬り裂いても飛ぶ能力を封じられない。魔蝙蝠を喰らうには、手の届くところまで誘き出すしかないのかも知れない。
魔蝙蝠が高度を下げ始めた。
奴の狙いは……鑪の傍の三人からは、離れた草むらだ!
(明け方に、一人で逃げだそうとした男が狙いか)
わたしから一番離れた獲物を狙ったのか、それともたった一人で取り残された恐怖心に反応したのか?
「ノアール、おいで」
次の瞬間。黒のローブに身を包むノアールが、空間を繋いで転移して来た。わたしは、海賊の剣を左手に握り直して、空いた右手を身体の正面に伸ばす。
逃げそびれた男がいるであろう草むらを指差した。
「はい。では、行ってきます」
ニッコリと微笑むと、ノアールは再び空間を繋いで転移していった。
ふう……小さくため息が漏れる。ここから先は、ノアールが魔物を狩るのを高みの見物するだけだ。
ふと……自分の所作で、高貴な身分の者たちがやっている鷹狩りを思い出した。




