【癒やしの聖女】第10話 命乞い
「俺たちが戻らなければ……人質にしている村長の家族は皆殺しだぞ。それでも、いいのかよ」
「村長たちだけじゃねえ……残った仲間が、住民みんな八つ裂きにしちまうぜ。へっへへへ……」
手足をへし折られた痛みで呻いていた4人だったが、日が昇る頃には身体が痛みに慣れたのか余計な口を叩くようになる。
面倒だから返事をしないで無視しておく。
「助けてくれ。オレは故郷に女房や子供を残してきてるんだ」
「お……俺たちは、金は巻き上げたが……住民は、一人も殺してないんだ。そりゃあ、痛めつけた奴は何人かいるが殺してないんだよ。本当だ……住民どもに確かめてくれ!」
「町を出ていくよぉ……このまま町に戻らず、姿を消すからよ。村長の家に置いて来た荷物は、みんなアンタにやる。だから……命だけは助けてくれよ」
脅しが通用しないと思ったか、次は泣き落としで来たな。
ノアールが獲ってきてくれた鱒の半身を焼くために、鑪に火を入れた。連中の夜襲に備えていたので燻製にする暇がなかった。昼食にはまだ早い時間だが、折角の魚を腐らせては勿体ない。
……ズルッ……ズッズッ
重いものを引き摺る音がした。視線を向けると、ならず者の一人が片足を引き摺ってヨロヨロと走って行く背中が見えた。
わたしの隙をついて逃げるつもりか?
逃げている本人は必死だろうが、片足だけでヒョコヒョコ走っても大した速さではない。わたしは、ゆっくりと投石紐に石礫を入れて振り回す。そして、放つ!
「ぐあ!」
石礫が当たったのは右肩だが、片足ではバランスが保てなかったようで前のめりに倒れた。逃げられないように両足をへし折っておこうか……と思ったが、別に一人くらい逃げても構わないのだ。
ここには餌になる3人がいるが、警戒すべきわたしもいる。一人だけ離れてノロノロと彷徨っている奴がいるなら、そっちこそ魔蝙蝠が狙うのではないか。むしろ、ちょうど良い撒き餌になりそうだ。
折れた足を引きずりながら這いつくばっている奴は、そのまま捨て置くことにする。
「おい。アンタは、一体誰に依頼されたんだ? 教会に、アンタを雇えるような金目のものがあったのかよ」
鱒の身に塩をまぶしていると、ならず者のリーダーが訊いてきた。リーダーとしては「金目のものを見逃していた」なら、それが悔しいのだろう。
今回は依頼は関係ない。ただノアールに餌を与えるための嫁の仕事だな。
「おい! 少しくらい話し相手になれよ。喋れないわけじゃねえだろう!」
はあ?
何で殺し合ってる相手と話をする必要があるんだ?




