【水魔】第10話 旅は続く
岸辺に腰を下ろして、魔鯰が消えた辺りを眺めているうちにノアールの濡れた髪も乾いてきた。
ノアールには黒のローブを着せ、わたしも脱いだ下着と革鎧を身に付ける。
「申し訳ありませんでした。つい、しがみ付いてしまって……」
わたしの右肩には、包帯代わりに浴布を引き裂いて巻き付けてある。それを左手で撫でながらノアールが謝罪した。
溺れたノアールを助けに行った時に、しがみ付いてきたノアールの鉤爪が食い込んだ傷だ。
「このくらいの流血は、戦士の日常だよ」
正直に言えば、本当に堪えたのは、蛇に巻き付かれた方だ。鱗の冷たい感触は、まだ胸と背中に残っているぞ。
野宿の道具をズタ袋へ放り込み、それをノアールに背負わせる。わたしとノアールの旅では、荷物を持つのは力持ちのノアールの役目だ。
「今更、町へ戻るのも面倒だよね」
魔鯰退治は、トレールの町から冒険者ギルドへ依頼した仕事だった。その仕事を完了させたわけだからギルドへ報告に行く必要がある。
船で湖を横切れば四半日くらいだが、街道を歩いて移動したら遠回りになるから丸1日かかる。
ロベルトは「船で町まで送ります」と言ってくれはしたが……わたし自身は、船の上で揺れるのが嫌だ。
ギルドへの報告はロベルト達に頼んで、わたしとノアールはこのまま旅に出ることにしよう。
ギルドへの報告を頼んだら、ランスに引き留められた。魔鯰退治の祝勝会をしたいと言う。
「それに、報酬の受け取りはどうするんだよ!」
手付金を受け取っているから、成功報酬の分はどうでもいい。ノアールに餌を与えただけのこと……当のノアールも、喰らいたかったものを喰らえたから不満はないだろう。
「どうしてもと言うなら、あんた達で分けておくれよ。世話になったお礼と思ってくれていいからさ」
ランスは熱心に「町に戻って欲しい」と誘って来たが、ロベルトは直ぐに納得してくれる。ロベルトには、わたしが船に乗りたくなくて「報酬を諦めた」のもわかっているようだった。
そして、ノアールが『神々の残滓を拾い集める者』として魔物を狩るために放浪する存在であることも。
トレールの町からフェルトの町へ向かう街道を歩きながら、わたしはノアールに訊いてみた。
「行きたいところはあるかい?」
わたしの問いかけに、ノアールは少し困った顔をする。
「海の幸を頂いたので、次は山の幸にしようとか思ったのですが……魔狼や魔牛はいつも喰らっている気がします。珍しい山の幸は、何があるのでしょう?」
淡水魚の鯰も、実は《《山の幸》》だったのだよ……と言うのは止めておこう。
Ep 水魔 -終-




