1話
「おおっ!!!動いた!」
頭がぼんやりする。
(人が寝ていたところに失礼なヤツだな、大体人の家まで来て一体何を、)
そこまで考えた所で一気に覚醒する
「ドロボー!!!」
そう言って体を起こそうとするが、寝ていたと思っていた体は透明な筒状の容器の中で立っていて、その勢いで目の前の透明な壁に豪快なキスをしてしまう。
「んが」
そこで初めて自分が尋常ならざる状況にある事を理解するが、はたして何で自分がこうなっているかさっぱりわからない。
「やはり!!! これは古代人の復活装置で、聖人像は彫刻なんかではなく、保管された古代人なんだ!!!」
部屋の中は明るくなんともSFチックといった様子、白とグレーを基調として壁にはよく分からない計器やスイッチなどが並んでいる
「これは世紀の発見だ!!! 俺の名が歴史に残る!!!」
先程頭をぶつけた際に、痛みがなさすぎる事が気になった、まるでフルダイブVRゲームをやっているような感覚だ。
「他の聖人像も復活させよう!!! 古代人の生活を詳らかにし、失われた文明の技術を復活させる!!! なんて素晴らしい!!!」
先程から興奮している白衣の男はともかく、その後ろの集団は女性もいるものの、まるで野盗といった風貌でこの場にそぐわないように見える。
「アンタたち、なんなのいったい」
「アガリア語だと!?」
言われてみれば日本語を話していない、しかし理解している、そもそも元から知っているはずのことを覚えておらず、知らないはずのことを色々知っている気がする。
例えばこの自分が入っている容器の開け方。
「古代文明とアガリアには文化的な繋がりがあるのか? ・・・私はアガリア大学教授セサル・ボレンアグ叡爵である。 言葉が理解出来たなら、名を名乗り所属を明らかにしたまえ。」
言葉は理解できるし、名前と所属も自分が認識している範囲では話せるが、それが今の現状に相応しいものだとは思えなかった。
記憶している自身とは全く別物の姿になっている上に、この体につけられた名前を知っている。
ただし、それらの記憶の前後の繋がりや今の現状への経緯がわからなくなっている以上、うまく説明できる気もしなかった。
「ガイノイドのアーリ、所属は国」
こちらを質問責めにしようとしてる人と話すのは今は正直言ってめんどくさい、端的に話して相手が理解したように話を合わせればいい。
「国?なんという国だ?それにガイノイドとはどういう意味だ?」
「ちょっとまって、お話しする前に準備するから」
シリンダーを中から開け、近くにある端末を操作して、コンソールを“浮かび上がらせ”それを操作していく。
まずは自分と、この施設が無線通信で繋がれるように設定した、そうすることで施設内外の情報を得て何を話すべきか、話さないべきか、はたまた今後どうするかも判断したい。
「ガイノイドってのは、人間の女性のように振る舞って人間の世話をするように魔法で作られたモノのことだよ」
コンソールを操作しながら聞かれたことを答える、しかし意識の半分以上はコンソールへ向かっていた。
(動力は特に問題無さそうだけど、施設のあちこちの壁が壊されてる。壊されてから時間経っているせいかその周辺の施設が劣化しているかもしれない)
「古代人では無いのか?」
「人間じゃ無いよ、あと国っていうのはアンタたちが言う古代人が生きてた頃は一つしか国が無かったから国に名前なんてないの ・・・・・・ナ゛ッ!!!」
途端にとても女性が出してはいけない声を出して気絶しそうになる、何故そんなにショックなのか自分でも分からないがもう彼らの言う古代人たちはもう全ていないらしい。
「おい!どうした!」
カラダの知識や感情に、精神が追いつきはじめていると言うべきか、彼女は叶えた願いを初めから順に思い出し始め、意識は完全に過去に向けられていた。
初めは、何か自分の中だけにある思春期特有の妄想で、カミサマだなんて相当イタイ奴かもしれないな、我ながら思ったりもした。
(お願いします、我らお救い下さい、雨を降らせてください)
どこかにいる誰かから、いつも耳には聞こえない祈りを感じていた。
(商売繁盛をお願いします)
どの祈りを叶えるか、叶えないかは自由に選べた、なんとなくどんな風に叶えているかはわかる、叶えようとした場合自分の何かが切り離されて、それがその世界に干渉してどうにかする。
(罪深い私をお許し下さい、家を守るため、実の兄を手にかけました)
叶えた祈りによっては消耗した何かが、もとより大きくなって還ってくることもあったが、そもそも還って来ないことの方が多かった。
(こんな事があっていいものか!!!神罰を、あの連中に神罰をお与え下さい!!!)
興味本位で叶えたり、消耗を恐れてずっと無視したり、常に感じる多くの祈りによって、日常生活を送る全てが注意散漫になってしまい、病院にかかればよく分からない病名を言い渡されて、効かない薬を渡された。
(どうか叶えて下さい、天使様には最後に贄お供えしてお還し致します、我らが眠っている間お守り下さい)
しかし、祈る側もどう祈ったらこちらが叶えるか学習したらしく、還すことを約束し、実際に還ってくる事も多くなった。
一番最初の頃まで取り戻したいし、それより大きくなれば現実に何か反映できる確信があった。
(どうか叶えて下さい、天使様には最後に贄をお供えしてお還し致します、目覚めた我らを“育てる”このガイノイドが役目を終えるまで、加護をお与え下さい)
いつも通り叶えただけのはずだった。
どのくらい消耗するか、どのくらい残っているか分かっているつもりだったが、全てが堕とされた。
「もう、還れないの?」
このガイノイドは、大量のガラス質の物体に封じられた魂と、データで残された遺伝子より、保存された人々の魂を入れたクローンを作り出し、全てのクローンを育てる事を使命としている。
「もう誰も居ないのに、何で今還れてないの?」
祈りを叶えれば還れるはず、しかし魂が封じられている筈のモノは全て無くなっていた。




