瑛人ーその7ー
彼女が急に店を出たのを見て俺も慌てて店を出た。
彼女は何か落ち込んでいるようだった。
「何かあったんですか?」彼女はハッとしたように
「何でもありません。彼女、もうすぐ休憩だそうです。堀江公園に来てもらって話を聞かせてもらうことになりました」
「そうですか。何か分かるといいですね。いきなり店を出たんでびっくりしましたよ」
彼女は少し恥ずかしそうに「まぁいいじゃないですか」
と言って堀江公園に向かって歩き始める。
この時彼女は謝らないんじゃなくて謝れないのかなという憶測を立てた。
そんなことを考えている内に彼女があまりに離れていくので急いで彼女を追う。
「私って森平さんにはどう見えますか?」
堀江公園のベンチで彼女が問いかけてきた。
「素敵に見えますよ。ショートカットもよく似合ってるし、オシャレですしね。ただ……」
「ただ何ですか?」
続きを言う声は女性の声に掻き消された。
「すみません。お待せしました」
俺は席を立ってベンチのすぐ向かいにある木にもたれ掛かる。
「ありがとうございます」
丁寧にお礼を言ってから女性はベンチに腰を下ろした。
少し沈黙のあと彼女が切り出した。
「店長に最後に逢ったのはいつ頃ですか?」
「店がなくなる3日前ぐらいだったと思います。その日の夜から旅行に行くみたいでした。確か長野だったかな?」
俺は思わず
「長野?何しに?」
と乱暴な言い方になった。女性もびっくりしてあたふたしている。
「森平さん!もう少し優しく言えないんですか?」
「ついびっくりして。続けてください」
女性は落ち着きを取り戻し
「ええ。でも旅行前だけど楽しそうではなかったんですよね。私の思い違いかもしれませんが」
「何のためかわかりませんか?」
彼女の目付きがだんだん真剣になってきている。
「大事な用があると言ってました。昔の思い出がねとか言ってたんですが詳しくはわからないんです」
関係ないかとは思ったが少し気になることがあった。
「店長の名前とかわかりますか?」
そう聞くと女性は名刺を取り出して俺に差し出した。それは俺がよく知っている名前だった。
『成宮豪』
名刺にはそう書かれている。
彼女は俺から名刺を取り何か手がかりがないか探している。
「私が知っているのはこのぐらいです。休憩もそろそろ終わるので店に戻りますね」
女性がそう言ったのがすごく遠くに聞こえるようだった。
「わざわざありがとうございました」
何故か彼女の声ははっきりとわかった。
彼女は振り返り俺を見て
「大丈夫ですか?具合が悪いようですが」
取り繕うように無理矢理笑顔を作った。
「ちょっと疲れちゃいましたね。今日は初バイトなんで少しゆっくりしようかな。次はまた今度にしませんか?作戦立て直しましょう」「わかりました。森平さんが落ち着いたらまた連絡頂けますか?いや、必ず連絡ください。待ってますから」
「了解です。ではまた」
振り返りすぐに笑顔を崩す。
彼女がまだ俺を見ている気がして振り向くことができずに前だけを見て家路についた。