衣咲ーその6ー
彼が急に横に来てかなり驚いたが強がってきつく言ってしまうことはなかった。彼に恥ずかしい気持ちを悟られたくないのでずっと前を向いていた。
私はこうして男の人と歩くのに慣れていない。
彼はそれに気付いているだろうか。そんなことが妙に気になる。
色々考えている内に危うく本屋を通りすぎるところだった。
「こ、ここです」
声が上ずる。
「良い雰囲気のお店ですね。本宮さんにピッタリだ」
本心かどうかわからなったが少し緊張が和らいだ。
「さぁ、行きましょう」
彼が店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
声を聞いてすぐにあの店員さんだとわかった。
店内は変わることなく私のお気に入りのままだった。
「あの人ですか?」
彼はひそひそ話のように耳打ちする。
ドキッとした私は彼から距離をとってしまった。
「びっくりしました?可愛いとこあるんですね」
いたずらな彼の笑みは可愛かった。
「からかわないでください。あの人がさっき話した人に間違いないです」
彼はまだ笑っている。
「本宮さんから聞いてもらった方が話がしやすいと思うので僕は店内を見ています」
私はうなずきカウンターに向かう。
「あの……私のこと覚えてますか?絵本を買ってて古着屋の場所教えてもらった者なんですが」
彼女は少し考えたがすぐに表情がにこやかになった。
「あ〜いつも来てくださってた方でしたか。お久しぶりです」
話がしやすいというより、単純に覚えていてくれて嬉しい。
「お聞きしたいんですが、古着屋さんなくなってますよね?何か知りませんか?」
彼女もすごく残念そうに
「そうなんです。ちょうど2週間前に引っ越しちゃったんですよね。店長になんでか聞いてみたんですけどちゃんと答えてくれなかったんですよ」
「そうなんですか。なんでもいいんです。お話聞かせてもらえませんか?」
「お役にたてるかわかりませんが私でわかることはお話します。もうすぐ休憩なのでもう少し待ってもらえますか?」
「ありがとうございます。では堀江公園でお待ちしてます」
「あの……あちらの男性は彼氏さんですか?」
彼女はずっと気になっていたらしいが、私にとってはかなり急なことで焦ってしまった。
「ち、違います。彼も古着屋がなくなってしまったのを残念に思って一緒に真相を確かめているだけです。ではお待ちしてます」
と私はそそくさと店をあとにした。
やっぱり恥ずかしかったりするとこうなってしまう自分がまた情けなくなった。