衣咲ーその5ー
また私はすみませんと言えなかった。
しかし彼とは意外なほどすんなり話ができている。
そのせいか、ついつい本音というよりも弱音を吐いてしまった。悲しい現実を受け止めることが怖かった。
ほっとしたのが彼も私と同じ気持ちだったことである。
恥ずかしそうに慌てて背を向ける彼が可愛く思えて、自分の顔が緩んだのを実感した。
彼の後ろをついていき、私から見て古着屋があった右隣の店に入った。
そこは美容室である。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
と年がわかりにくい女性が愛想よくやってきた。
「違うんです。ちょっとお訪ねしたいことがあるんですが……」
彼が丁寧に聞く。
「なんでしょう?」
「この店の隣に古着屋があったと思うんですがいつ頃閉店したかわかりませんか?」
彼女は少し考えるようにして何か思い出したように
「確か2週間ぐらい前に引っ越しのトラックが店の前に止まってた気がしますけどはっきりした日にちはわからないですね」
「そうですか。ありがとうございました」
それだけ聞いてすぐに店を出た。
「2週間前まではあったみたいですね。こっちの隣にも聞いて見ましょう!」
彼に昨日の不安な感じはまるでなく、むしろ楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
人が楽しそうにしているとなんだか気に入らなくなるのも私のひねた性格の一つだ。
でも彼にはそんな気持ちを全く抱かなかった。
ついていてあげないといけないという気持ちで私は足早に彼を追った。
彼は店の前で立ち止まっている。
「どうしたんですか?」
彼は無言で店の方を指さした。
「私が行きます」
そう言い残して私はランジェリーショップに入った。