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アイビーに絡まれて  作者: 夢乃間
4/6

嘘を真に

妹を襲ってしまった事がキッカケで狂いだした私達の日常だったが、今は元の日常に戻りつつあった。百合とは姉妹以上の関係となり、咲はあれから私に対して強引に何かをするといった事は無くなった。二人と少しだけ関係は変わったが、以前と同じ仲の良い関係を保っている。

そう、前と同じ関係だ。今は穏やかな日常を過ごせてはいるが、私の行動で百合か咲、どちらか二人がまた狂いだすかもしれない。どちらか一方を気にかけ過ぎれば、もう一方が狂ってしまう。平等に二人と関わる事は私には出来ない。

私はまた二人の内どちらかが狂ってしまう事を内心怯えながら、この状況をもっと良く出来る案がないかを考え、悩み続けている間に季節は夏に変わっていた。


「美央、夏休みはどうする?」


窓に寄りかかりながら咲が私に夏休みについて話しかけてきた。そうか、明日から夏休みなのか。だから皆どこかウキウキとしていたんだ。二人との関係をどうしようか考えていた所為で、夏休みが近づいていた事に気付きもしなかった。


「特に無いかな?」


「そっか・・・それじゃあさ、明日私の家で一緒に宿題終わらせない?泊まり込みで・・・。」


「初日から一気に?別にいいけど、本当に宿題終わらせられるかな~?絶対他の事し始めそうだし。」


「っ!?」


明らかに動揺している。別に言い訳なんかしないで、普通に遊びたいって言ってくれれば・・・そうか、明日から夏休みなんだよね。


「ねぇ咲。よかったら夏休みの間、私の家に泊りに来てよ。」


「ふぇ?」


「どうせ夏休みなんだし、私達しか家にはいないんだしさ。」


「嬉しい・・・けど、美央の家には、その・・・百合、ちゃんが・・・。」


「いるけど・・・やっぱり、突然だし嫌だよね。ごめん。」


「え・・・う、ううん・・・少し、時間頂戴。今日の夜には返事するから。」


そう言って咲は自分の席からカバンを取って、逃げるように教室から出ていった。あの反応から察するに、百合が言っていた事は本当のようだ。にわかに信じられなかったけど、さっきの咲の反応は明らかに百合を避けているようだった。


「良い考えだと思ったんだけどなー。」


私が考えていたのは、まさに百合と咲の二人の関係についてだ。百合の話ではお互い敵意を持っているようだけど、長い間一緒に暮らしてみれば、お互いの良い所に気付いて、今度は本当に仲良くなってくれるかもしれない。

二人の良い所を私は知っている。それに、二人が知らないだけで、二人はよく似ている。気遣いが出来て優しい所や、反応が可愛い所なんか特に。もし二人が仲良くなってくれれば、三人で幸せになれるかもしれない。

私はまた懲りずに甘い考えを持っていた。しかし、それが今の状況を収められる唯一の方法だと思った。それに、今まで仲良く遊んでいたのが嘘だった事が悲しかったから。

でも、今からでも遅くない。これから三人で仲良く出来れば、誰も悲しむ事も、誰も狂う事も無くなる。その為にも、咲が私の家に泊りに来てくれる事を祈るしかない。


それから時間が過ぎ、晩御飯の時間になっても咲から返事が返ってくる事は無かった。こちらから連絡を取ろうとしたが、それだと何だか強制しているみたいで何か違う。あくまで咲自身が決めないと、この計画に意味は無い。


「さっきからずっと携帯ばかり見て、どうしたの?」


食器を洗い終えた百合が私の隣の席に座ってきた。


「・・・百合、夏休みに何か予定はある?友達と旅行に行くとか?」


「無いよ。私、友達と言える人いないから。」


「そう、なの・・・。」


一つ心配事が増えた。


「もしかしたらね・・・咲が、家に泊りに来る・・・かも。」


「・・・。」


恐る恐る聞いてみると、さっきまでニコニコと笑顔を見せていた百合の表情が真顔になり、私の耳元に口を近づけて囁いてきた。


「私、言ったよね?あの人に嫌われてるって・・・。」


「い、言ってた。言ってたけど!やっぱり三人で仲良くなろうよ!今度は本当に―――」


「絶対無理だよ。だって・・・。」


すると私の顔を百合は無理矢理自分の方へ向け、私の唇に深く、長く、唇を当ててきた。百合の顔が近い所為で鼻で息がしづらい。息苦しくなって百合の肩を叩くが、彼女は一向に唇を離そうとしなかった。

意識が段々と薄れていき、私の抵抗する力が無くなると、そこで百合はようやく唇を離し、私は咳込みながら呼吸を整えていく。

すると、百合は私の両頬に手を当て、私の目をジッと覗き込んでくる。


「だって、あの人もお姉ちゃんが好きなんだもん。私、お姉ちゃんを取られたくないよ・・・そんなの、嫌だよ・・・!」


そう言って、百合は泣いた。私はまた自分の事しか考えていなかった。三人で仲良くなる為に一緒に暮らそうなんて、二人からしてみれば、好きな人が自分と同じ想いを抱いている人と仲良くしている所なんて見たくないに決まっている。実際私も、百合が他の人と親しくしている所を見れば、表向きには喜んで見せるけど、内心きっと傷付くだろう。

二人の気持ちを知っていたのに、私はまた自分勝手に動くところだった。


「ごめん・・・ごめんね、百合。」


私は百合の顔を自分の胸に抱き寄せ、少しでも落ち着かせようと頭を撫でた。ううん、それは綺麗事だ。実際は泣いている百合を見て、胸の奥から湧き上がってくる罪悪感に恐れたから。だから百合の顔を見ないように抱き寄せ、湧き上がってくる罪悪感を拭う為に謝罪の言葉を百合に、自分に言い聞かせているに過ぎない。

また逃げ出そうとしている自分に嫌気がさす。このまま自分可愛さで逃げ続けるの?・・・違う。確かに私は二人の気持ちよりも自分の事を考えていたかもしれない。

だけど、【三人で仲良くなりたい】これは変わらぬ願いだ。この願いも自分勝手な事かもしれないが、私だけが感じていた三人で仲良く遊んでいた時の幸せな気持ちを二人にも分かって欲しい。三人で仲良く出来れば、私なんかの所為で二人が狂う事は無くなる。

私は自分の胸にうずめていた百合を離し、今度は目を逸らさずにジッと見つめながら、私の想いを打ち明けた。


「百合。あなたの気持ちは分かる・・・でも私はやっぱり、昔の三人のようになりたいの。」


「そんなの、そんなの今と何も変わらないよ・・・。」


「いいえ。今度は本当に仲良くなるの。私ね、あれが嘘だと知る前は、とっても良い思い出だったの。可愛い妹、仲の良い親友・・・三人で遊んだ思い出は、今でも忘れられないの。だから百合や咲にも、私と同じ思い出を作ってほしいの。今度は、本当に仲の良い三人で。」


「・・・でも、あの人きっとどこかのタイミングでお姉ちゃんを奪おうとするよ。」


「大丈夫よ。あなたには弱いけど、咲には強く出れるから。」


「・・・分かった。でも、忘れないで?あの人がお姉ちゃんに何かしようとしたら、私は何が何でも阻止するから。」


そう言い残して、百合は自分の部屋に去っていった。納得はしてくれたけど、きっとまだ完全には受け入れてはいないだろう。


その後、私も自分の部屋に入り、宿題を少しでも片付けようと音楽を聴きながら進めていると、聴いていた音楽が一時停止され、着信が入った。

着信主は、咲だった。


「もしもし、咲?」


『あ、美央・・・夜遅くにごめんね。』


まだ夜10時だが、早寝早起きの咲にとっては遅い時間なんだろう。


『それで、美央の家に泊る事についてだけどさ。』


「うん。」


『私・・・泊りに行く。』


「・・・本当?」


『うん・・・。』


私の提案を了承してくれた咲だったが、声色はあまり乗り気ではなかった。だがこれでスタートラインに立てた。あとは明日、咲と百合が顔を合わせた時の反応で、今後の生活の計画を立てよう。


『それで・・・百合ちゃんにはこの事を話したの?』


「うん。百合も良いって。」


『・・・そう。それじゃあ、明日準備が終わり次第そっちに向かうよ。』


「うん。それじゃあ、待ってる。」


『・・・うん、おやすみ。』


「おやすみ。」


通話を切り、止まっていた音楽が再び再生された。明日百合と咲が会う・・・楽しみと思える期待感と不安で頭が一杯になり、これ以上勉強が進みそうになかった。

音楽を止め、開いていたノートを閉じ、部屋の電気を消してからベッドに入った。


「二人共、仲良くなれるかな・・・悪化したら、それが原因で喧嘩が起きたら・・・いや、まだ始まってもないのに悪い事ばかり考えるのはやめよう・・・。」


不安から思い浮かぶビジョンを拭い、今日だけは何も考えずに寝ようと布団にくるまった。明日から大変な日常が始まる。私の行動や言動、二人の想いによって、今後の私達の関係は大きく変わる。きっと簡単には三人で仲良くなる事は出来ない。

けど、そうしなければ私はどちらか一人を失ってしまう。幼い頃から愛している妹の百合。幼い頃から親しい大切な親友である咲。どちらも私にとって、失いたくない大切な存在だ。


「きっと・・・上手くいく・・・。」


そう自分に言い聞かせ、私は瞼を閉じて眠りについた。





























次話から夏休みパート入ります。頑張って楽し気な生活を書けるようにするぞ。

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