表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を創るモノ  作者: 仲田憂城
10/13

No.10 君は誰か。敵は何者か。

「——三週間前、(あけぼの)中学校が未確認生命体の襲撃を受け、教員、生徒併せて五三六名が命を落とした。このような悲劇を二度と起こしてはならない。超自然能力を持つというかの二人の少年の存在を知ったとき、未確認生命体は彼らと同じような超自然能力によって生み出された、いわば間接的な殺人でないかと悟った者も少なくない筈だ。我々は、此の町の治安維持のために、今迄オカルトであった分野に切り込むことになる。一切の常識を棄て、君たちには以前以降其の総てを懐疑——否、探求して欲しい——本日より、漣市警異能力対策本部を結成する!」

其の黒髪は、一切の伽羅油を用ひた様子はないが、然し艶があり、確かに指で擦沿(なぞ)れる程に好く梳かれて居た。銀縁の丸眼鏡は部屋中を見通し、皴一つ無いスーツと紺のネクタイは正しく彼の生き様であった。対面(たいめ)す方へ正に対局、皴だらけのスーツに散らかった頭髪を揺らし、彼に近寄るは須藤(すどう)正博(まさひろ)。忽ち眼前の長机に腰掛け、ホッチキスで留められた書類を靡かせ乍ら男を若干ゃ見上げる。先程迄演説して居た男は一転声色を落とし須藤へ言う。

「失礼だとは思はないのですか。」

「こりゃ失礼。」とだけ言って彼が姿勢を正すこともなく話始める。

「それより篠原(しのはら)さん、聞いて下さいよ。」

「また無駄話ですか、いい加減にしたらどうです。」

「またってなんスか。オレはいつだって大の真面目っスよ。マ、いいや。見てくださいよこれ、高波地区の防犯カメラです、」

書類の束からタブレットを引き抜き画面を点ける。暫く再生を続けると、闇夜より獣頭人身の怪物が現れた。

「ほら!こりゃとんでもない映像だ、ついに捉えたんスよ!怪物の全容を!そして次、」

よく見ると怪物は後ずさりして居るようである。その目線の先より()で来たのは、二人の少女であった。其の容姿まるで瓜二つ、首のあたりで切れた黒髪を揺らし化け物を追っていた。

「これは——」

「探しましょう、此の子たちを。屹度何か知って居る筈っス。」


 真っ白な扉を開き、中へ入る。ベッドに座る沙耶の姿を見て其処へ近寄り、彼女の横顔に話し掛ける。

「久しぶりだな、沙耶。怪我はもうなんともないのか。」

「全然。三週間も要らなかったよ。私はいいって言ったのに、お医者さんが念の為、念の為って止めるの。もう退屈なくらい。」依然顔を窓に向けた儘答える。ベッドの横に手提げ一つ分の荷物が纏められているのを認め、彼女と同じ方を向く。

「沙耶……僕は御前さえ、守れなかった。」

「ごめん、なんて言わないでね。言葉じゃ私の友達は、帰って来ない。」

僕は、この現在を避けられた筈だ。かの予知夢にあれだけ恐怖して、何故自分は非力だと考えた。実際は違った。能力が底上げした身体能力は、かの化け物を掃討するに足る実力を秘めて居た。己の犠牲を顧みず、彼奴らを止めることを、僕は出来た筈なのに。嗚呼、過去を作り替える能力があれば、どれだけ良いだろうかと、今日ほどに思うことはない——と、信じたい。其の為に、僕は。

「帰ろう、家に。」

「うん、そうしよう。」

彼女の荷物を持ち、空いた手を差し出す。「いいよ。」僕らは横並びで歩き出した。病院を出たところに、一人の少女が立って居た。否、良く見ると二人だ、一方の肩よりもう一方が顔を覗かせて居る。前方の少女は腕を組み道の中心に立ち、僕と目が合うや否や、叫んだ。

「最神春香(はるか)ッ!」

僕と妹は顔を見合わせ、首を傾げ、前進して彼女らの直前まで来たとき、歩みを止め答える。

「どちら様。」

立花(たちばな)夏芽(なつめ)!」

ぐいと親指を後方に突き立てる。勢い余って其の指は陰に隠れる少女の額に激突し、静かに蹲った。結果として、其の夏芽(なつめ)とかいうのは空虚を指したことになる。

「こっちが冬華(とうか)!沙耶ちゃん、退院おめでとう!」

其の手を今度は此方に向け、沙耶に握手を求めだす。「どうも」とぼそりと呟き、手を交わし、今度は僕を指差す。

「で!最神春香!」

「何で僕は呼び捨てなんだ。」

「同級生だからだ!」

「嘘をつけ。」

彼女たちは僕の腹ほどしか身長がない。とても高校生には見えなかった。

「これを見るといい!」然し彼女が取り出したのは銀色の卡片(かあど)である。見るに漣高校の学生証である其れは、確かに彼女が其処の二年生であることを示して居た。

「此の紋所が目に入らぬか!」

「紋所は何処に在るんだよ。」

「じゃあ、春くん。」

「春くん。」

学生証を仕舞い、続ける。

「先ずは(あけぼの)中学襲撃事件をこんな結果へと招いて了ったことについて謝りたい。——単なる謝罪でとても赦されることではないが、然し私のこころとして、君達に伝えたい。」彼女はそう言って頭を下げる。

「すると、立花(たちばな)夏芽(なつめ)、お前も九条さんのような能力者で、マリオネットの退治に関わって居たということか。」

言葉が何になるのだと、皆解って居る。けれど言わなくてはどうも解決しないこころの靄があるのだ。其れを晴らしたいが為に上っ面を並べるのとは訳が違うが、此の気持ちを、言葉として昇華させたい。僕だって。——此処に於いて加害者は僕だけではないか。事件の存在する未来を知り乍ら何故其れを未然に防げなかった。何故看過した。蓋し僕は愚か者だ。もう、こんなことには。

「その通りだよ、春くん。沙耶ちゃんも、九条凛のことは知って居るね。」彼女は顔を上げ、沙耶の方に手を指す。沙耶は其れに頷いた。

「私達は彼女の同級生、且つ<(うつわ)>を持った能力者だ。三週間前の事件について君達に話したかったのと、今後の計画について春くんに共有したく、此処に来た。」

「今後の計画?」

「取り敢えず付いて来てよ、話は歩き乍らでも出来るからさ。」

「待った。」僕は告げる。「なら沙耶は帰してくれ。退院の直後で疲弊しきって居る。」

夏芽(なつめ)は振り返って、僕の身躯をずいと見上げ、問う。

「春くん、君は沙耶ちゃんを守れるのかな。」

「やってみせるさ。」

まじまじと僕の眼を見て、軈て口を開いた。

「沙耶ちゃん。」

「はい。」

「これを着けておきなよ。」銀色の輪を投げる。沙耶は受け取り、此れを眺めて直ぐに其れが指輪であることを認めた。

「指輪のボタンを押せば私たちが駆け付ける。人差し指に嵌めておくといいんじゃないかな。親指でボタンが押せるからね。」言う通り、彼女は指輪を左手の人差し指に嵌め、其れを確認してから夏芽(なつめ)は再び僕を見た。

「先ずは君達の家に寄ろう。」


沙耶を家に帰してから暫く、彼女は本題を切り出した。

「——(あけぼの)中学の襲撃以来、私達が何もしなかった訳では無い。寧ろ其の逆で、マリオネットが起こす事件に付きっきりだった位だ。春くんと凛ちゃんが居なかった分、然して此の悲惨な事件を繰り返さない為に、一秒とて、警戒を怠らなかった。お陰で、事件以前のものも併せて、膨大なデータを手に入れることができた。」

「データ。」僕は疑問符を打つ。

「最も大事なのは出現時間だ。マリオネットが現れるのは十三時から十四時迄、或いは十八時から十九時迄に固定されて居る、あの事件の日を除いてね。」

そうして居る内に件のコンテナヤードに辿り着く。彼女らは幾つかのコンテナの戸を開き、僕に見せた。其の中には、かの本棚の箱も在った。冬華(とうか)は其の中から折りたたまれた一枚の紙を取り出し、コンテナを閉めて、別の箱へ移る。其の中にはコルクボードが備わって居り、開いた其の紙を画鋲で以て其処に固定した。

「此れが何か分かるよね。」

「漣市の地図だ。——けど、此の赤い点は何だ。」

そう、其処には赤い点が同心円状に連なって居た。数秒考えて、家の近くの公園にも赤点が付されて居るのを理解したとたん、合点がついた。

「いや、マリオネットの出現位置か。」

「面白いよねえ、こんなに綺麗に円になるとは。此の円の中心からどの赤点に行くにも、今までのマリオネットの鈍間さから鑑みるに、凡そ一時間だ。出現時間から一時間遡ると、大体お昼休みと終業に重なるのかな。——」

ふと、彼女は口を閉ざした。足音だ、漣の音に紛れて、確かにコンクリートを革靴が踏みしめる音がする。九条さんのローファーか、それとも。夏芽(なつめ)冬華(とうか)と互いの片手を差し出し合う。其の手の間からは、僅かな光とともに、牛脂程の大きさの正四面体が生成される。夏芽(なつめ)は空いた手で、素早く地図を折り畳みコンテナの奥へ投げやった。足音が近付くと共に、僕らもコンテナの出口へ進み、遂に戸から飛び出した。確かに革靴、然し其れは九条凛ではなく、スーツを身に纏った男だった、僕は此の男を知って居る。確かに見たが然し名前が思い出せない。男は「うおっ」と驚き僅かに退いて、然し僕の顔を見た途端直ぐに頭に添えて居た左手を僅かに天に掲げた。

「最神君!」男は言う、僕は問う。「どなたですか。」

男は忽ち胸の内ポケットに手を伸ばし、黒い手帳を取り出し、其れを開き、勲章を示した。

「あの事件の時に、君の取り調べを担当した、須藤(すどう)だ。何だ、君達知り合いだったのか。」

此の男、コンテナに二人が居ることを知って居る。

「君——達、とは。」僕は白を切る。

「そうだろう、俺ァ立花姉妹を追ってたからね。丁度見かけて後を附けて来たんだ。此のコンテナだろう。——ほら居た。」須藤は僕が出て来たコンテナを覗き込み、右手を立花姉妹に振った。

「此処は君達のアジトかい。」

「そうだよ。」夏芽(なつめ)(いら)へる。

「マズいね、刑事さんにこんな場所がバレちゃ。」須藤は笑って周りを見回した。

「ホントは今直ぐに話を訊きたかったんだけど、チョット不味いな、附いて来てンのがおカタい人だからさ、屹度叱られるぜ、だからまた今度にしよう。」

須藤は手帳のページを切り離して、サッサと文字を並べて二人に渡した。

「少ししたら電話を呉よ、俺は煙草を吸ってたってコトにするから、じゃ。」

途端に須藤を呼ぶ声が彼方より響く。「はァい!」と返事をして、彼は再び姉妹に手を振り、僕にも振って、駆け出した。

「何てコトない、刑事さんだったな。良い人そうだ。」

夏芽(なつめ)は何も無いコルクボードを見て、背を盾に丸まる冬華(とうか)の顔色を伺い、軈て僕と目を合わした。

「春くん、凛ちゃんが君に言ったかどうか解らないから念の為言っておくけれど、マリオネットは、私達を狙って居る能力者が生み出したものである可能性が極めて高い。」

「解ってる。」

「今一度此の地図を見てみよう。」彼女が地図を手に持ち僕の眼前に広げた。其の向こうに居る少女は僕に問う。

「此の円の中心には何がある。」

「さあ、一体何処だか。」

「此の街に住んで居るってのが信じられないよ、良い?此処はね、漣警察署だよ。——だから、春くんは人を、とりわけ警察の人間を信じる可きじゃないんだよ。」


警察車両に乗り込んだ須藤は、煙草の火を携帯灰皿に擦り付けて息を吐いた。篠原(しのはら)は彼の顔を一瞥して、サイドブレーキを外す。

「収穫はありましたか。」

須藤は上司の問いに尚も沈黙して居る。窓から覗く流れ行く景色は、平常通りの街を映して居た。

「須藤刑事。」

「いや、いや。唯の野暮用スよ。何て事ない、唯の私用。」

篠原(しのはら)は訝し気に鼻から息を漏らし、ハンドルを握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ