5(了)
研究所から2人が逃走してから数分後、坪倉とリリアは木陰で休息をとっていた。
リリアは坪倉が銃撃された腕に包帯を巻く。
「ドクター、大丈夫ですか? ここまで逃げれば大丈夫でしょう。応急処置を急ぎます」
「……ああ、頼む 済まないなリリア」
「暫くじっとしていてください」
木陰からは小さな池のほとりが見え、坪倉はこれから迫りくる過酷な運命を思う。
そして姪の面影そのままのリリアを正面から見据えた。
「……リリア 私が君を造った理由は分かるね。私は奴らを止めねばならない…… 私が始めた研究だが奴らの所業は私の想定を超え、もはや狂っている……! キメラの手によるテロリズムなどあってはならない未来なのだ……」
坪倉は高遠たちがこれより起こすであろうテロリズムを止めるための有効な手駒としてリリアを造った。
キメラの手によるテロリズムなど絶対に阻止しなければならない。
リリアは力強く頷き坪倉の目を見据える。
美しく整った顔立ちに透き通った瞳。
感情など解さないはずであるがリリアの瞳は坪倉の心をまるで理解しているかのようであった。
「はい、存じておりますドクター。しかし私が、ではなく私たちが、です。共に戦いましょう」
治療を終えた坪倉は頷きリリアの手を掴み立ち上がった。
「ああ、共に戦ってくれリリア……!」
それより数ヶ月、坪倉とリリアはある時は狭間研究所のパソコンをハッキングし、またある時は警察機関を動かすために非道な実験の証拠を送るなどして高遠たちの妨害工作を行った。
しかし、そのいずれも決定的な妨害には至らず遂にその時は来てしまった……
高遠がキメラを率いて渋谷でテロを起こしたのだ。
わずか数十分で渋谷で演説していた政治家十数名、近くにいた警察や一般人数百名が殺害された。
バイクでリリアと共に荒れ果てた街を進みながら坪倉は歯噛みする。
死体の山と逃げ惑う人々で渋谷は混乱の極みにあった。
「くそっ……! 高遠……! 我々は奴らのテロを止めることが出来なかった……
せめて救助を急ぐぞ、リリア」
「了解しました、ドクター」
しばらく街を行くが高遠とキメラたちの姿は見えない。
街を見回すとビル群からは黒煙が上がり、そこら中から悲鳴が聞こえる。
キメラによって殺害された惨殺死体が道端には積み上がっていた。
正に地獄である。
坪倉は拳を握りしめた。
「なんという惨状だ……! これが高遠の…… いや、私の為したことか……!」
その時、リリアが坪倉の袖を引く。
「ドクター! 後方31メートル先に生体反応を確認。救助を」
「よし、急ごうリリア」
リリアの言う通り瓦礫を退けると胸と頭から血を流した青年が現れる。
坪倉とリリアは急いで彼を瓦礫から引っ張り出し、応急処置を行うべくバイクへと運び入れる。
「しっかりしろ! 君! 今助けるからな!」
坪倉はバイタルを確認するが青年の心停止が確認される。
だが、この時坪倉はまだ知らない。
この青年こそは、後にリリアと共に高遠率いるキメラに立ち向かう正義の改造人間となることを……
最後までお読みいただきありがとうございました。
いずれ続きも書きたいな、と思っています。