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第20話 ボスキャラ登場

 ミツエが合流した勇者一行は、一度ダンジョンから撤収することにした。

 ……夏美が服を着替えたいと強く要望したからだ。


 改めて夏美が戦闘用の服に着替えると、治癒魔術によって戦闘不能状態から舞い戻った隊員たちがふたたび合流する。

 この頃にはようやく上層部も重い腰をあげており、応援部隊も到着していた。


 もっとも、石崎に言わせれば「こいつら程度では何人いても多分同じだな」という話ではあるが。


 そんなわけでダンジョンに再突入した勇者一行だが、石崎の予言通り結果は散々であった。

 勇者たちが準備を整えている間に、ジルベルトとソウタも回収したティンクチャーをもとにしてダンジョンの拡大とモンスターの補充を行っていたからである。


 かくして、ジルベルトが初手で行った雪崩のごとき物量作戦によって、ふたたび勇者一行は半数が戦闘不能にまで追い込まれた。


「最近の若いのは根性がないねぇ」


 茫然と立ち尽くす隊員たちを見下し、物騒な老婆が毒づく。

 その言い草に、思わず夏美が苦笑した。


「根性でどうにかなる話じゃないと思いますよ、ミツエさん」


「お前ら……後ろでただ見ていただけの奴が言っていい台詞じゃねぇぞ」


 かくいう石崎も何もしていない。

 正確には何もできなかったというべきか。


「だって、武器では倒しにくい敵だったんですから、仕方がないじゃないですか。

 それとも、仲間を巻き込みながら広い範囲をまとめて吹っ飛ばした方がよかったですか?」


 先ほどまで勇者一行を襲っていたのは、武器を使って倒そうとすると周りに被害を出してしまう、そんなきわめて効率の悪い相手だったのだ。


「いちいち核を探して切り刻むだなんてやってられませんよ?

 近寄ると臭いし、汚いし」


「いや、さそれでも何か出来ることはなかったのかなと……」


「無かったですね。

 だから、体力と気力を温存するのが最適。

 石崎さんもそう考えたんでしょ?」


「まぁ、そうなんだが……ちくしょう、さっきのプラナリアといい、今回のスライムの群れと言い、ゴッ太郎の奴め俺たちのやりにくい相手を熟知してやがる」


「まったくだよ。

 まさか、海底のヘドロをつかって厄介なスライムを量産してくるとはねぇ……。

 知恵の回る筋肉だよアレは」


 ジルベルトの行った物量作戦の目的は、ふたたび魔術師と言う戦術的リソースを0にすることであった。

 物理攻撃のほとんど効かないスライムを大量にけしかけ、さらに周囲で魔術を使うとティンクチャーの消耗が数倍に膨れ上がるという能力を付けてきたのである。


「おかげで魔術師連中の手持ちのティンクチャーはスッカラカンだ。

 これ以上は予算も下りない。

 魔術師連中はもう動かせないから、いったん地上に返すぞ」


 ティンクチャーの尽きた魔術師など、ただの置物と同じだ。

 ならば、戦闘に巻き込まれて怪我をしないうちに地上に戻す石崎の判断は間違ってないだろう。

 だが、ここで夏美が疑問を口にした。


「私たち物理戦闘組だけで攻略するんですか?

 同じことされたら、対処できませんよ?」


「だが、何度やり直しても同じだろう?

 それこそ材料のヘドロは無尽蔵だ。

 俺たちだけでなんとかする方法を見つけ出すしかない。

 さもなくば、この最悪な連鎖を止める方法を見つけるかだが……。

 たぶん、海の中のゴミをすべてなくすか、一気にダンジョンを攻略するかのどちらしかないぞ。

 そして前者は明らかに不可能だ。

 ついでに、ジルベルトはゴミがなくなったら海産物を元にモンスターを作るだろう」


「その状態に追い込んだら、地元の漁業関係者からクレームが来ますね。

 ただでさえ、今回の作戦で貴重なティンクチャーを使い切っちゃいましたから、総務の連中から突き上げ食らうかもしれないのに。

 これで何も成果が出せなかったら、来季の予算がどうなるか……考えるだけでもうんざりします」


「その分のティンクチャーはゴッ太郎に吐き出させるとしてだ。

 ……まったくもって厄介な奴だな。

 いくらなんでも、モンスターの生成スピードが速すぎる」


「ヤマダさん、実はあれで規格外の天才なんですよねぇ。

 向こうじゃ大魔王の側近としてかなりの有名人だったみたいですよ?

 大魔王の前に一度も勇者を通したことが無いんだって、本人が自慢げに言ってました」


 夏美が溜息をついていると、少し離れたところでミツエがなにやら粉を撒きはじめた。


「なに撒いてるんだ、婆さん」


「口の利き方に気をつけな、クソガキ。

 こいつはねぇ、保険だよ」


 石崎が思わず声をかけると、その言い方が気に食わなかったのかミツエはジロリと睨んできた。


「保険だと? こんな粉で保険になるのか?」


「ヒヒヒ、発想が貧困だねぇ。

 だからお前はいつまでたっても現場どまりなんだよ」


 いったい何の粉か気になるところだが、こうやってはぐらかすところを見ると、教える気はなさそうである。


「うるせぇ、俺は現場が好きなんだよ」


「おふたりとも、喧嘩しないでください。

 そろそろ次の部屋みたいですよ」


 幸いなことに、ジルベルトはヘドロスライムを連続してけしかけてくることはなかった。

 だが、逆に言えばその分次のモンスターの強さに自信があるという事である。


 目の前につづく回廊の向こうに、複雑な彫刻を施された石の扉が見えてきた。

 髑髏や悪魔を形どった、美術館かヘヴィメタルのコンサート会場でもない限り、おそらく作ることも飾ることもないであろう趣味の物である。


 ただ、ダンジョンと言う場所ならばデザインの趣味が多少悪くても様になるようで、ごく自然にその場に調和していた。

 つまり、一言で言うならばボスモンスターの部屋だ。


「おや、贅沢なつくりだねぇ」


「……あのバカ、無駄にこだわってやがる」


「うーん、こういうのあまり好みじゃないですね。

 私はもっと、こう、キラキラしたのが好きです」


 三者三様の感想を口にしつつ、勇者たちは扉を開ける。

 目の前には広い部屋があり、その中央にはさらに巨大なプールがあった。

 どうやら、大物を投入してくる気らしい。


 三人が入ると、後ろの扉が勝手に閉じられた。

 そして、プールの上にジルベルトと、そのジルベルトの肩に座ったソウタの姿が映る。

 チラチラとノイズが走るところを見ると、実態ではない。

 おそらく立体映像だ。


「ふはははは、よくぞここまでたどり着いた勇者ども!」


 妙になれた感じで言い放つジルベルトに、夏美は頭痛をこらえるようなしぐさで声をかけた。


「何やってるんですか、ヤマダさん!」


「あ、いえ、こういうシチュエーションなんで、つい昔の仕事の癖が」


 おもわず素にもどって頭をポリポリと掻く姿は、普段のジルベルトそのものだ。

 どうやら何かに洗脳されたりしたわけではないらしい。


「おいコラ、ゴッ太郎!

 お前、いい大人の癖に人の迷惑になるような遊びやらかしてんじゃねーぞ!」


 石崎が怒鳴りつけると、ジルベルトは何かを思い出したかのようにポンと手を打った。


「あー、そういえば、僕、今は魔王じゃないんでしたね。

 ソウタさんに乗せられて、ついうっかり忘れてました」


 実はただの海水浴客だったなんて、いまさらな話である。


「調子のいい男だねぇ、まったく。

 これが残念なイケメンってやつかい?」


 そんな感想を告げるミツエに、夏美はため息交じりにうなずく。


「そうですね、顔はいいのに色々と残念な人なんですよ」


 馬鹿な事やってないで、早く帰りましょう。

 夏美がそう告げようとするのを遮って、ソウタがジルベルトの角をペチペチと叩いて告げた。


「ジル、おしゃべりしてないで、はやくお披露目!」


「あー、はいはい。

 えー、コホン。

 勇者どもよ、ここが貴様らの墓場だ!

 我が最強のモンスターの前に、なすすべもなく朽ち果てるがいい!!」


 どうやら、ここでお遊びをやめて帰ろうという事にはならないらしい。

 ジルベルトは普段と全く違う、悪の大幹部としての威厳を纏いながらそう宣言したのであった。


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