表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/41

09

 それから私は気分転換に馬小屋へ向かった。

 愛馬のノワールに乗り、森へ足を伸ばす。

 心をリフレッシュさせるには、これが一番。


 湖畔の周りには沢山の動物が代わる代わるやってくる。アルジャンはほぼ変態になってしまったし、私は癒しを求めて湖畔を目指した。


「平和だわ」


 途中で怪我をしたシカと遭遇して魔法で治してあげて、それ以降は元気な動物にしか会っていない。

 この国の森の切り崩しもほとんど終ったからか、最近は住みかを求めて逃げてくる動物も減ってきた。


 ノワールと一緒に草原に座り、湖の向こう側で水を飲むコジカを見つけ私は満足していた。


「可愛い~」


 そう。これが私の日常。

 森に帰した動物達を見守るの。


 アルジャンだって、ああやって森に帰ってしまったと思えばいいのよ。

 だって、もし狼に戻ったとしてもアルジャンモドキなのよ?

 無理無理。知ってしまったら、もう絶対にナデナデなんて出来ないわ。


 もうアルジャンはいない。家族の元へ帰ったの。

 アルジャンモドキは適当にあしらっておけばいい。

 どうせ私みたいな干物女なんて、すぐに飽きて国へ帰るでしょう。


 でも、あの尻尾はどうなるのかしら。

 まさか自分の身体の一部に剣を向けるなんて。

 やっぱり最恐の辺境伯というのは本当なんだわ。


 でも、あのフワフワの尻尾が無くなったら……。

 アルジャンがこの世界から消えてしまうように思えて、胸が苦しい。


 アルジャンは他の動物達より人懐っこくて、優しくて、フワフワでモフモフで可愛くていい匂いがして――。

 駄目だわ。忘れなきゃいけないのに。


「はぁ……」


 私のため息に反応して、草を食べていたノワールが隣に寝転んだ。いつもは立って眠るのに、最近構ってやれなかったから、甘えているのかもしれない。

 ノワールは黒い肢体を撫でてやると、嬉しそうに鼻をならした。


「よしよし。いい子ね……」


 ポカポカ暖かい日差しに包まれて、ノワールの寝息が聞こえる。気持ち良すぎて、私はそのまま夢の中に誘われていった。


 ◇◇


「……んっ」


 ぶるんっと耳元で唸るノワールの鼻息で目が覚めた。

 大分ぐっすり眠っていた気がするけれどまだ眠い。

 ノワールに額を鼻で押されて原っぱの上を転がると、フワフワに触れた。

 これ大好き。だからモギュッと抱き寄せた。


「アルジャン……」

「ぅぉっ」

「ぇっ?」


 フワフワがビクッと跳ねて変な声をあげた。

 恐る恐る目を開けると、案の定、アルジャンモドキがいた。

 私は腕の中のモフモフを慌てて手放した。


 彼は身体を起こして顔を赤くし、私に不満そうに目を向ける。


「エヴァ。尻尾は敏感なところだから優しく握って」

「な、何よ。さっきは剣を向けようとしたくせに」

「エヴァなら止めると思ったから。好きだろ? 尻尾」

「べ、別にっ。アルジャンはもう家族の元へ帰ったの。そう思うことにしたから。私のことは忘れて国へ帰って」


 強い口調で睨み付けてやったら、悲しげに私を見つめ返した。

 アルジャンと同じ琥珀色の瞳で。


「忘れて? そんなの無理に決まってるだろ。エヴァが、愛する者へどんな目を向けるのか。その瞳も声も全て知っているのに……。もう愛されないとか。無理だ」


 物凄く真面目に恥ずかしいこと言っているような……なんだか胸の辺りが悶々としてきた。


 ああ、そっか。尻尾のせいね。

 あの尻尾に触れたいから、こんなに変な気持ちになるのよ。


 そう……。そうとしか考えられない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ