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おまけ 〜数年後〜

「お母様ぁ~、オオカミ騎士とさらわれた姫、読んで~」


 ベッドの上で甘えた声でそう言ったのは、今年で三歳になる息子のレオン。


「やだ! 今日はオオカミ騎士と廃城の月を読んでもらう約束!」


 隣で元気よく話すのは、弟のリオン。


「えー。レイラ様が昨日持ってきてくれた新作がいい~」


 そのまた隣から口を挟むのは、妹のルーナだ。


 私とアルトゥールの間には三つ子が生まれた。

 レオンとリオンはアルトゥールに似て銀髪で琥珀色の瞳を持つ。二人ともそっくりで、見分けがつかない人がほとんど。ルーナも同じ色味だけど、一人だけ垂れ目なのと、髪がウェーブがかかっているので、他の人でもすぐ分かる。

 初めての出産で、一気に三人の親になった私たち。生まれた頃は大変で、寝かしつけは銀狼の尻尾任せだったころが懐かしい。

 あの頃は泣いてばかりだった三人は、長男のレオンが甘えん坊で、次男がやんちゃ、長女がおしゃべりでしっかり者に成長している。


 毎晩、私はこの子達に『オオカミ騎士』シリーズの童話を読み聞かせている。動物達と心を通わすことの出来るオオカミ騎士が、森を守るためにあちこちの国を飛び回って悪い領主や王族を退治していくお話だ。


 これは実際のロドリゲス家の人々の武勇伝を童話にしたものだ。私とアルトゥールが、人と狼の話を子どもたちも伝えていきたいと叔父様ご夫婦に話すと、レイラ様が童話を書いてくれたのだ。


 子どもたちは、この童話も、森も人間も動物も大好きだ。

 ロドリゲス家の男児が狼になることは、十五歳を過ぎてからしか教えないらしく、この子達はまだ何も知らないでいる。

 いつか自分の気持ちに迷った時に、この童話を通して感じたことが、この子達の助けになったらと、そう願っている。


「今日、お父様は~?」

「みんなが寝てからお帰りになるわ」

「そっか、今日はオオカミさんなの?」

「え?…………」


 レオンの問いかけに、私は驚いて固まってしまった。


 アルトゥールが銀狼になれることは、子ども達は知らない。

 寝かしつけで銀狼になっていたもの、赤子の頃だから覚えていないはずなのに。

 

「この前見たよ。お母様、オオカミさんと、ねんねしてたでしょ?」

「そ、それは……」

「見てすぐわかったよ。お父様だなぁって」


 レオンはにっこり笑顔でそう言うと、ルーナが言った。


「赤ちゃんのとき、私たちもお父様と一緒に寝ていたわよね」

「あー、覚えてるー!」


 モフモフですぐ寝ちゃうよねー。と三人が笑い合っている。


「このお話のさらわれた姫はお母様でしょ? それから……」

「えっ、えっ……」


 私が驚いているうちに、子ども達は童話を指差し、これはお父様で、これはお祖父様で~と話し始めた。

 あらあら。みんなどうして知っているのかしら……。


 ◇◇◇◇


 アルトゥールは屋敷に戻ると、まず子ども達に会いに行く。

 今日は、大きなベッドで一緒に眠る三人の寝顔にただいまを言った。

 私は、その寝顔を見ながら今日の出来事を話した。


「へぇ~。みんないつの間に知ったんだろう」

「レイラ様が童話をくださった時に、みんなで聞いたみたいなの。これはお父様? って。それに、夜に銀狼になったアルトゥールを見たから、全部知っているんだって言って尋ねたみたいで……」


 どうやら、私に聞いてもはぐらかされてしまいそうだと思い、優しいレイラ様に聞いたようだ。


「そっか。こうして僕たちが知らぬ間にオトナになっていくのかな」

「アルトゥール。その台詞、三歳の子どもに言うには早すぎないかしら」

「そうだな。はははっ」

「どうしてそんなに笑っているの? 私なんて、驚いて言葉を返せなかったのに」

「まぁ、早めに知ってもらえて良かったかもな。俺みたいなことになる心配がなくなった訳だから。ただ、秘密だってことは、教えないといけないな。俺のエヴァみたいに、拐われたら大変だからな。狼になれる人間なんていい見世物だ」

「そうよね……」

「心配なら要らないよ。俺、叔父上の魔法使えるようになったから。三人がどこにいようとすぐ見つけられるし」


 叔父夫婦からアルトゥールの両親の話を聞いた後、私達は叔父上の屋敷へよく遊びに行くようになった。私はレイラ様にこの国のことを色々と教えてもらい、アルトゥールは叔父様に魔法を教えてもらった。

 もう少しで叔父様の魔法を使えるようになると言っていたけれど、どうやら成功したようだ。

 本当に、頼りになる旦那様だ。


「お父様ぁ~?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、まだ半分夢心地なレオンが声を上げた。


「ん、起こしてしまったか?」

「一緒に寝よぉ~」

「そうだな」


 アルトゥールはレオンの頭を撫でると、隣に寝転んだ。

 子どもたちと寝られるように、ベッドは特注サイズ。

 今日はここで休もうと思い、私はルーナの隣に寝転ぶと、レオンがアルトゥールに抱きつきながら言った。


「ねぇ。オオカミさんがいい~」

「ん? 仕方ないなぁ」


 アルトゥールはレオンのリクエスト通り銀狼になると、レオンに頬を寄せ、三人の頭の上に腰を下ろした。

 私の目の前にはモフモフの尻尾がある。


「あらぁ……。眼福だわ」


 子ども達の寝顔に銀狼。そしてフワフワの尻尾が私の頬に。

 なんて幸せなのだろう。


 レオンもリオンも銀髪ということは、将来二人も銀狼になるのかしら。

 そしたら、三匹の銀狼に囲まれてモフモフ天国に……。


『エヴァ。なんか、やましいことでも考えてる?』

「えっ……全然、何も!」


 しまった。油断して顔が緩みすぎてしまったみたい。


『そう。じゃあ、おやすみ』

「おやすみなさ……え……あら? 銀狼のまま話せるの?」

『あぁ。触れている人となら、声を発しなくても言葉を飛ばせる。これも叔父上から教わったよ』


 触れているだけで……。

 確かに、いつもの声と違って、頭に響いてくるような声だ。

 アルトゥールは声を出さなくても、思った言葉を相手に飛ばせると言った。……だったら、その逆は?


「も、もしかして、私の心の中で思ったことも聞こえていたの!?」

『……いや。相手に伝えることしかできないよ』

「そ、そう。良かった。おやすみなさい」


 ああ、びっくりした。よし、出来ないってことは、やっぱり私の顔に気持ちが出てしまっていたってことよね。

 モフモフ天国の妄想の続きは夢の中でしよう。

 そう思って瞳を閉じると、また声が聞こえた。


『夢で続きが見られるといいね』

「……えっ、やっぱり聞こえているの!?」

『おやすみ、エヴァ』

「……おやすみなさい」


 もう、どっちでもいっか。

 そんな魔法が使えようが使えまいが、いつもアルトゥールには何でも見透かされていた。

 欲しい時に、欲しい言葉をくれて、そばにいて欲しい時にはいつもいてくれた。

 アルトゥールの隣は、とても居心地がいい。

 森で昼寝している時と同じ自分でいられる。

  

 そうだ、明日は子ども達と森へ行こう。

 みんなもう知っているのだし、銀狼の背中に乗って遊びましょう。


 モフモフの尻尾が頬を撫でる。


 ああ。この幸せが、この先もずっと続きますように。



 おわり

最後までお読みいただきありがとうございました!

コミカライズしている作品もありますので、そちらもお読みいただけたら嬉しいです。


また、評価☆☆☆☆☆など、していただけると励みになります。よろしくお願いします。

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