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番外編 狼と人間 3

「私達は、ある国の王女として生まれたの。姉はとても聡明で、国王である父の政策に、いつも反発していたわ。国王は、国民の利を取り、森を壊して街を作り、近隣国から力で土地を奪う人だったから」


 自分の生まれた国も似たようなものだ。

 父のおかげで、ベリス領の森は守られてきたけれど、他の貴族の領土はどんどん街や農地を増やす傾向にあると聞いた。

 どの国も似たような王が多いのだろうかと思うと胸が痛い。


 レイラ様は更に言葉を続けた。


「姉は動物と話せたの。姉には、人のせいで苦しめられる動物の悲痛な声が、毎日聞こえていたそうよ。だから余計に父に反発していたのだと、あとで聞いたわ」


 動物の声……。そんな才能を持った人がいるなんて羨ましいけれど、聞こえる声が悲痛な声ばかりだなんて、私だったら気が狂ってしまうだろう。


「結局父は、姉の言葉なんて聞かず、ついにはこの国へも手を出した。そしてロドリゲス辺境伯によって、いとも簡単に国は滅ぼされたのよ」


 レイラ様が悲しそうな笑みを浮かべて言うと、隣に座るアルトゥールは、私の手をギュッと握りしめた。


「国が滅んだ日。崩壊した城の上に、一匹だけ銀色の狼がいたのを見たわ。私は、全てを壊した銀狼がただただ怖かったけれど……姉はその狼を見て美しいと思ったんですって。銀狼が、森を壊し動物達を殺した野蛮な国の人々を、懲らしめてくれたんだって」

「それが……父と母の出会いなのですね」


 ユストゥスが悲しそうにそう呟いた。


「そうよ。姉は、銀狼に一目惚れして、そのまま国を離れてついて行ったわ。そしてあなた達の父親と結婚して二人が生まれたの」

「あの、レイラ様は国が滅んでしまったあと、どうされたのですか?」


  ユストゥスが尋ねると、レイラ様は顔を曇らせて答えた。

 

「私は……自国の生き残った人々が作った革命軍の象徴に祭り上げられて、彼らと行動を共にしていたわ。でも、革命軍なんて名ばかりでね。彼らは強盗や人拐いを繰り返しているだけの賊に落ちてしまった」

「そんな……」


 生きていくためには、仕方なかったのかもしれない。

 でも、罪を犯すこと以外に方法はなかったのだろうか。


「私は気が弱くて、彼らを説き伏せようとしても叶わなかった。彼らを変えられないことに苦悩していた時、あなた達の叔父上が……今の私の主人が、悪事を働くばかりの革命軍を武力で潰して、解散させたの……そうして私は彼らから解放されたわ」

「レイラ様……。では、その時に叔父上と出会われたのですね」


 ユストゥスの質問に、レイラ様は柔らかく微笑んで答えた。


「ええ。その時、主人が兄の妻と似た私に気付いて、また軍の象徴などと悪用されないように匿ってくれたの。彼は革命軍の残党にも罪を償ったあとの生活の場を用意してくれたのよ。でも、それに漏れてしまう人がいるのも現実……。──エヴァさん。ごめんなさい。あなたを拐った人達はその革命軍の残党なの」

「えっ……」

「謝らないでください。レイラ様は何も悪くありませんから」


 アルトゥールはそう言って、私の手を強く握った。

 レイラ様は悪くない。私も同意見だ。

 でも、レイラ様は首を横に振って言った。


「いいえ。私の責任でもあるの。それは違わない。怖い思いをさせて、ごめんなさい」

「大丈夫です。もう過ぎたことです。それに、叔父様が助けてくださいましたから」

「そう。エヴァさんは強い方なのね。──姉も、強い人だったわ」

「そうですね。でも、俺にはレイラ様も強くて頼もしい母親の一人ですよ」


 レイラ様はアルトゥールの言葉にぐっと涙をこらえ、口を開いた。


「ありがとう。そうであれたら嬉しい。……姉はね、二人が生まれてから、より一層、森を守るという使命に取り憑かれていったわ。それは、動物の声が聞こえるものの宿命だと本人は言っていたけれど……きっと」

「俺たちが狼になれるから……」


 アルトゥールの言葉にレイラ様は頷いた。

 きっとアルトゥールの母親は、動物と会話ができるようになるであろう息子たちに、自分と同じように動物達の悲痛な声を聞かせたくなかったのかもしれない。


「ええ。……ごめんなさい。私は、姉を止めるべきだった」

「止める?」

「私は姉がいつも正しいと思っていたわ。でも、あなた達の父親は、姉が背中を押さなければ、他国を侵略し続けることはなかったと思うの。だから……ごめんなさい」


 そう言ってレイラ様は大粒の涙を流し両手で顔を覆い、うつ向いて泣き続けた。


「その先は俺が話そう」

「叔父上」




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