05
変態はシーツ一枚腰に巻いた姿でベッドから降り、私の家族へと挨拶をした。
「初めまして。このような身形で申し訳ありません。私はアルトゥール=ロドリゲス。隣国の伯爵にございます。ある呪いにより銀狼へと姿を変えられていたところ、エヴァに助けていただきました。是非エヴァを私の妻として迎え入れたいと思っております。いかがでしょうか?」
「ほぉ。身分も良し。隣国の伯爵なら第二王子様も気になさらないだろう。ワシは賛成だ」
「私も賛成よ。婚約破棄なんてされて、人生終わったって思っていたのに……。こんなにすぐに縁談が纏まるなんてっ。私、嬉しくって泣いちゃうっ」
うちの両親チョロ過ぎ。
私だったらこんな変態に娘あげないわよ。
私が両親の反応に呆れていると、兄は真面目な顔をして口を開いた。
そうよお兄様。はっきり言ってやって。
結婚してない女性のベッドに全裸で潜り込んで、しかも私からアルジャンを奪っておいて知らん顔。
こんな奴、投獄しちゃって!
「ロドリゲス? 聞いたことがあるな。――あっ、隣国最恐の辺境伯様じゃないか? 冷酷非道。国潰しの天才とか言われていて、この国も狙ってるって……」
えっ。綺麗な顔して、すっごくヤバい奴じゃないの!?
「そんな立派な人間ではありませんが、この国も最近攻略対象に入れたのは本当ですし、まさか知られているとは思ってませんでした。ですが、エヴァをくださるなら、それも保留にいたしましょう。ベリス侯爵領は美しい森がありますし、それを壊すことはしたくありませんから」
変態の言葉を聞くと、みんな羨望の眼差しで奴を見つめた。
「おおっ。エヴァ、お前のお陰で国が救われたぞ!」
「やだぁ。こんな素敵な方の義理ママになれるなんて。幸せ過ぎっ」
「エヴァ。結婚おめでとう」
「ちょっ、ちょっと待って! どうして、こんなに怪しい不審者の言葉を信じるのっ!? 私のアルジャンは人間じゃないわ。狼なのっ。私はこんな奴がアルジャンだなんて認めないわっ」
「エヴァ……」
みんな揃って私に哀れみの目を向ける。
おいおい。
娘の言うことよりイケメン取らないでよっ!
変態は私に向き直ると捨てられた子犬のような目を向けた。
「エヴァ。毎夜毎夜、私を愛していると囁いてくれたのは嘘だったのか?」
「だから、貴方にそんな事言ってないわっ」
「毎日毎日、頬をすり寄せ、私の気持ち良いところを沢山撫でてくれたじゃないか」
「してない、してないっ。変な言い方しないでっ」
「昨日、家族になると約束しただろう?」
昨夜の事を知っているの?
もしかしたら本当に――いいえ。違うわ。
きっとあの時にはもう忍び込んでいたのよ。
「それは、アルジャンにしたのよ。貴方にじゃないっ。私は、貴方なんか愛していないわっ!!」
差し伸べられた変態の手を思いっきり叩き返して叫ぶと、変態がビクッ体を震わせた。
そして腰に巻いたシーツから、フワリの銀色の尾が覗く。
「え? 尻尾?」
変態も尻尾の出現に驚き、そっとそれに触れた。
「尻尾……生えてる。あ、でも。これで俺がアルジャンだと信じてくれるかい? 愛しいエヴァ?」
フワフワの尻尾がユラユラ揺れている。
ああ、アルジャンだわ。
あの尻尾をムギュってしてワシャワシャしてブラッシングしたい。
でも駄目。違う違う。
尻尾以外、人間なのだから。




