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番外編 叔父との確執3

「……アルトゥール。今度、俺の屋敷に来い。俺は兄に似たお前が嫌いだ。二人で話などしたくない。その時はユスと……エヴァンジェリーナも一緒に連れてこい」

「はい。ありがとうございます」


 叔父様は、アルトゥールの謝罪を受け入れてくれたようだ。 

 叔父様が部屋を後にすると、重い魔力の圧が消え去っていった。

 ホッと息をつき、私はアルトゥールと二人でソファーに腰を下ろし、飲み忘れていた紅茶に手を伸ばした。


「叔父様、良い方ね。アルトゥールの事、ずっと心配していらしたんだわ」

「……そうかもな。今まで一度も、そんな事気付かなかったし、考えたこともなかった。エヴァのお陰で、気付くことができた」

「わたしも、アルトゥールに会えたから、命の恩人に会うことができたわ。――あっ! ちゃんとお礼を言えなかったわ」

「今度、一緒に行こう。──あのさ。さっき、エヴァが俺のことを庇ってくれて嬉しかった。俺はエヴァを守り共に生きていくためにも、叔父上との対話を重ねていくと決めたよ」

「うん」


 返事をすると、アルトゥールはニコッと微笑み、仕切り直しとばかりに手をパンっと叩いた。


「さて。式の準備やら色々忙しかったが、一週間ほど休暇をいただいている。エヴァに国を案内しようと思っている。何が見たい? 野生の狼に羊がいいか? それともヌーの大群がいいかな」

「野生の狼に羊……ヌーの大群」


 想像しただけで鳥肌が立った。

 早く見たいし触れたいし抱きしめたい。


「他にも見せたいものはたくさんあるし、したいことも沢山ある」

「それなら、明日は朝早く起きてすぐにここを出ましょう!」

「ははっ。寝坊助なエヴァにしてはいい傾向だけど、明日はどうかな。……明日の予定は午後から入れてある」

「なぜ?」

「…………今日からエヴァは俺と寝室を共にすることになる。のは覚えてる?」


 アルトゥールは真っ赤な顔で俯いていて、顔を上げて私を見つめると尋ねた。

 寝室は今までも一緒だった。

 でも、それはこの国に来るまでで、今は違う。

 だけど今日からは――。


「その顔はすっかり忘れてたってとこかな」


 アルトゥールの顔がぐいっと私へと寄せられた。

 つい私も後ろへ下がってしまうと、アルトゥールは不満そうに口をとがらせ私の指に自身のそれを絡めてきた。


「エヴァ。なんか逃げそうだな。この部屋の奥にも、休めるところがあるんだけど」

「ちょっ……」


 私が引いてもアルトゥールがまた更に顔を近づけるから、私は動揺して避けようとして、ソファーに押し倒された。


「エヴァ……」


 甘く私の名を囁きながら、アルトゥールが私に倒れかかる。  

 そして――。


「バゥっ!!」


 窓辺から狼の吠える声が響いた。

 今にもこちらへ飛びかかろうとしている黒狼のユスを、真っ赤な顔をしたヘレナさんが後ろから抱きしめて止めていた。


「きゃーっ。ユス様ったら。今は喋っちゃ駄目ですわ。あ、あの。えっと……。今日は本当にありがとうございました。ごちそうさまでした! ごゆっくりおやすみくださいませっ」


 ヘレナさんはユスを抱き上げると、何度も頭を下げながら扉へと駆けていく。


「バゥっ! バゥゥ~」


 ユスはずっとバゥバゥ吠えて何か言いたげだったけれど、無理矢理ヘレナさんに担がれて部屋を出て行った。


 アルトゥールは私を押し倒したままの格好で固まっていた。でも、扉が閉まると一度瞳を閉じてため息をつき、何事もなかったかのように、また私を見下ろして顔を近づけてきた。


「あ、アルトゥールの変態っ」

「いてっ」

「こんなところでヘレナさんにも見られて……。もう知らないんだから」


 アルトゥールを押し返して顔を背けると、彼は切ない声で私の名を呼んだ。


「え、エヴァ……。そっか。夜はアレだよな」


 振り向いてみると、アルトゥールは銀狼の姿に変わっていた。琥珀色の瞳にじっと見つめられて、これで機嫌を直してくれって声が聞こえてきた気がする。


「……もう。仕方ないわね。モフモフさせてくれるなら……許してあげる。でも、今日だけよ」

「バゥ!」


 寝室へ移動しようと部屋から出ると、ダリアが半泣きの状態で待っていた。


「お、奥様っ。旦那様と仲が良すぎて、もうダリアは幸せいっぱいにございます。湯の用意が出来ておりますが、お二人で入られますか?」

「へっ!?」

「だって、もうイチャイチャしちゃって、私の入る隙が全く無かったので、湯浴みからアルトゥール様にお任せしちゃおうかなって」

「何を馬鹿なことを言ってるのよ。それにアルトゥールは今、銀ろ……」


 言いかけた時、身体がフワッと浮かび上がった。いつの間に習得したのか、アルトゥールは既に服を着て人型になり、私を抱き上げていた。

 おでこにキスをしなければ戻れないのではなかったのかしら……。


「ダリア。湯浴みは君に任すよ。でも、絶対に逃さないように頼むよ」

「はい。もちろんです!」


 なんだか以前にも聞いたことのあるようなやり取りだ。


「ねぇ、モフモフの約束は?」

「俺の背中、見て」

「へ? あら」


 アルトゥールの背中には、銀色のモフモフの尻尾が生えていた。


「身体の一部分だけ狼化することが出来るようになった」

「す、すごい!」


 私が瞳を輝かせて尻尾に飛びつくと、アルトゥールは満足そうに微笑んで言った。


「お気に召しましたか。奥様?」


 もちろん気に入りました。

 そう即答しそうになって、口をつぐむ。


 いつも私ばかり喜ばせてもらっている。

 私だってアルトゥールをもっともっと喜ばせたいのに。

 だから──。


「……好きよ」

「へ?」

「モフモフも……あ、アルトゥールのことも」


 今の気持ちを素直に伝えた。

 アルトゥールの顔がみるみる赤く染まっていく。

 多分、私も同じ顔をしてる。


「エ、エヴァ。俺も……あ」

「ぅぅっ。あ、私のことは気になさらないでください。いませんいません。どうぞ続けてください」


 ダリアは廊下の隅っこで笑顔で号泣している。

 しまった。ダリアのことを忘れていた。

 アルトゥールは顔を近づけ、耳元で囁いた。


「続きは二人の時に」

「……うん」


 なんとなく頷いてしまったけど、ダリアがそれを見てまた悶えていて、頷いて良かったのかわからなくなってきた。

 

「エヴァ、行こう」


 アルトゥールが私の手を引く。

 後ろからまた何か声がした気がしたけど、私は振り返らずに彼に連れられて行った。

 

 







お読みいたたきありがとうございます。

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