番外編 叔父との確執1
ユスの事を聞いた叔父様は屋敷に残り、アルトゥールが話を聞いているのだけれど、どうも様子がおかしい。
向かい合ってソファーに腰を下ろし、にらみ合ったまま全く話が進んでいない気がする。
私はヘレナさんと窓辺でお茶を飲みながら二人を見守っていたのだけれど、このままじゃ埒が明かないと思って席を立った。
「ヘレナさん。叔父様とお話をしますので、ユスのそばにいてあげてください」
「はい」
ヘレナさんは窓辺で丸くなって眠っているユスの隣に腰を下ろした。ユスは疲れて眠ってしまっていた。狼の姿では、普段使わない筋肉を使うので、慣れるまでとても疲れるとアルトゥールが言っていた。
私がアルトゥールと叔父上の座るソファーの横に立つと、アルトゥールは立ち上がり私へ言った。
「エヴァ、色々とわかったよ」
「では、ユスは大丈夫なの?」
「ああ。ただ、想い合っているだけでは駄目だそうだ。人と狼の魔力を混ぜ、調和させることで戻れるらしい。最低でも三日はかかるとか」
「そうなのね」
意外なことに、アルトゥールと叔父様は、単に睨み合っていただけではなくて、ちゃんと会話が成立していたらしい。
「ヘレナには俺から伝えるよ。エヴァは──」
「私も叔父様とお話しできたらと……」
「……分かった。そうしてくれ」
アルトゥールは渋々承諾すると、ヘレナさんがいる窓辺へと向かい、私は叔父様とその場に残された。
叔父様は私と目が合うと、ソファーに視線を落とした。
「かけなさい」
「はい。失礼致します」
私は叔父様の斜め向かいに腰を下ろした。ユスと同じ黒髪で琥珀色の瞳の叔父様。近くでみると、そんなに怖くないかもしれない。二人はよく似ている。
「君は、人間が苦手と聞いたが。本当か?」
「えっ? は、はい」
「幼い時に誘拐されたことが原因だと、ユスが話していた」
「はい。ですが、その時、一匹の黒い狼に助けていただいたのです。今のユスと、そっくりの黒狼に」
「そうか」
そう呟いて叔父様は紅茶を口に運んだ。
カップを持った右の手の甲には、弓で射ぬかれた様な傷跡がある。他にも、首筋には切り傷の跡があるし、右目の眼帯からは、切り傷がはみ出している。
やはり、この方のどこを見ても無気力将軍には見えなかった。
「ですが、森に黒狼はいないとヘレナさんはおっしゃっていました。今はいないけれど、昔はいたと考えるとアルトゥールのお父様が、あの時の黒狼なのではないかと思いました。アルトゥールのお父様は、黒狼でしたか?」
「いいや。アルトゥールと同じく、野蛮な銀狼だった。私は兄が嫌いでな。あいつの魔法は美しくない」
「アルトゥールも同じ事を言っていました。自分の魔法は美しくない、と。叔父様は、黒い狼には心当たりはありませんか?」
「……さぁ」
叔父様は私から視線を外し、また紅茶を一口飲んだ。
そう言えば、叔父様は黒髪で琥珀色の瞳だ。
ユスに似ていて、狼にもなれるのよね。
それに手の甲の弓の傷跡。私を助けてくれたあの黒狼も、あの日、兵士に手を射ぬかれていて……。
「あの。……もしかしてですが、叔父様があの時の黒狼ですか?」
「ごほっ。な、何の話だ?」
「い、今、お話していたではないですか。昔、私を助けてくださったのは……」
「そろそろ失礼する」
叔父様は急に顔色を変えると立ち上がった。
「お、お待ち下さい」
立ち去ろうとする叔父様の手を私は掴んだ。
ほら、怖くない。嫌じゃない。
温かくて、どこか懐かしくて、自然と涙が出た。
「は、離したまえ」
「嫌です。私はあの日、貴方に助けていただいたのですよね? この手の傷はあの日の弓の跡なのですよね?」
「こ、こんな傷、いつ出来たかなど覚えておらんっ。人違いだ」
「私、人が怖いんです。でも、貴方は怖くない。こんな怖い顔をしているのに……。認めてくださるまで離しませんっ」
私が腕にしがみつくと、叔父様は手を振りほどこうと抵抗を見せたけれど、その力は弱く、無理やり私を引き剥がそうとはしないでくれた。絶対にこの方があの時の黒狼だ。本能的にそう確信した時、叔父様の動きがピタリと止み、私は背筋にゾッと悪寒が走るのを感じた。
「叔父上……俺のエヴァに、なにをされているんですか?」
声に重い魔力を感じて振り返れない。
でも分かる。アルトゥールが……キレた。




