最終話
男の人はこういう時に緊張しないものなのだろうか。父は泣き止んだ後はスッキリした顔をして私をエスコートしてくれた。
教会の大きな扉が開かれ、祭壇の前には真っ白なタキシードを着たアルトゥールの背中が見える。
ロドリゲス領の教会は想像よりも大きくて私は心臓が飛び出そうなほど緊張しているのに、父は悠然としていた。
人が多過ぎるから、なるべくアルトゥールの背中だけを見るようにしたけど、参列席から兄のすすり泣きが聞こえてきて、気になってそちらに目を向けた。
毅然とした母の横で兄はボロボロ涙を溢して義姉に背中を擦ってもらっていた。その隣の姉夫婦はいつも通りだけれど、妹のシェレスティーナは化粧が濃すぎっ!? 確か結婚式でいい人を見つけるんだって息巻いてたわね。
家族を見たらちょっと気持ちが落ち着いた。
新郎側の最前列にユストゥスの姿はなく、そのかわりに黒狼がいる。昨日色々な事がありまして、ユストゥスは黒狼の姿で参加している。一応、ユストゥスの婚約者のペットと言う名目で参列している。
兄弟揃って可愛いモフモフ。
それに、アルトゥールが言っていた通り、ロドリゲス領の森は広大で、ここはモフモフ天国だった。
でも、私が一番一緒にいたいのは……。
「アルトゥール。エヴァを頼むよ」
アルトゥールが笑顔で頷くと、父は私の手をアルトゥールへと渡した。大きな手。温かくてほっとする。
私がじっと手を見つめているとアルトゥールが小声で呟いた。
「モフモフじゃなくて残念?」
「……いいえ。この手も大好きよ」
「へっ?」
アルトゥールは「不意打ちかよっ」て呟きながら耳まで真っ赤に染めて、私の手をギュッと握りしめてきたから、私も握り返した。そしたらまた慌てた様子で下唇を噛んで悶えている。
彼の手を、私の意思で握り返すのは初めてかもしれない。寝ている時にそうされたことがあるって言っていたけれど、たったこれだけの事で、こんなに喜んでくれるなんて、可愛い旦那様だ。
たまには素直になるのもいいかもしれない。
目の前に立つ神父は、微笑ましそうにアルトゥールを見て問いかけた。
「アルトゥール=ロドリゲス、貴方はエヴァンジェリーナ=ベリスを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、そしてモフモフのときも――」
「ちょっ……、何ですかっ。そのモフモフって」
アルトゥールの疑問に神父は朗らかに笑って答えた。
「ロドリゲス家の婚姻の際は、いつもこの文言が入っております。広大なロドリゲス領の森の管理者の一族ですからね。度々モフりますでしょう?」
「いや……俺は別に……」
戸惑い言葉を濁すアルトゥール。
彼はモフられる方だと自覚している様子だ。
「神父様。私はモフる為にここへ来ましたので、その誓いを歓迎しますわ」
アルトゥールは横目で私を見て、フッと吹き出すと私の耳元で囁いた。
「……お好きなだけどうぞ?」
「ええ。そうさせていただきます。私が好きなのは、モフモフですから」
私の言葉にアルトゥールは嬉しそうに微笑み返した。
彼には、この言葉も愛の告白に聞こえているのだろう。
でもそれでいい。私もそのつもりだから。
でも、誰かとこうして気持ちが通じ合える日が来るなんて思わなかった。
私は誰からも逃げていたから。
きっと世界中どこを探しても、そのままの私を受け止めて愛してくれる人は彼しかいないと思う。
だからこれからは逃げずに向き合っていこうと思う。
モフモフに囲まれながらね。
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました!
最終話で何故ユストュスが黒狼だったのか。
番外編で書きたいな。
と思いつつ新作に手を伸ばしてしまい、書きかけのまま本編の投稿が終わってしまいました(つд;*)
書き上がり次第、投稿したいと思います。
面白かったと思った方はブクマ・評価☆ミ
など、応援くださると嬉しいです(*´∀`*)尸"
*新作投稿始めました*
『妹のドアマットから解放された私は公爵家の家庭教師になりまして』
良かったら、こちらもよろしくお願いいたします(^-^)




