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それから数ヶ月後。
「きゃっ。お嬢様、素敵です~」
ダリアが隣で今日も騒がしい。
隣国へ来てどれほど日がたっただろう。
毎日、今日の準備のために慌ただしく過ぎていき、日付の感覚がない。
今日は私とアルトゥールの結婚式。
人前に出ることを嫌がった私に、アルトゥールは必要最低限の招待客の前で手短に終わらせるって言ってくれたのだけれど……。
式の直前にダリアから貰った客人名簿を見て私は動揺を隠せずにいた。
まず目に入ってきたのは、この国の国王と女王。
アルトゥールがお二人と親しいのはこの国へ来てから教えてもらったけれど、まだお会いしたことがないので緊張する。
それからこの王子夫妻に、私の国の王の名前まである。他にもアルトゥールの国の貴族の名前がずらりと並んでいる。
ざっと百名はくだらないのだけれど、これで必要最低限なの!?
アルトゥールの親戚や私の親族とか、身内だけかと思っていたので衝撃的な数だった。
「お嬢様。お顔の色が優れませんね。ですが、アルトゥール様はこれでも善処されたのですよ。自国の招待客はみんなアルトゥール様の身内同然のお友達だそうですし。お嬢様の母国の方は、下心丸出しの方ばかりでしたので、ほとんどご遠慮いただいたんですよ」
「そうなの?」
「さすがに王だけは招いたそうですが、こちらの戦力を見せつけるために呼んだようですよ。またひっくり返されたいか? って。ふふっ」
ダリアはそう言ってあの日の事を思い出して笑っているようだった。
――コルネリウスがベリス領を訪れたあの日、国中が震撼した。
アルトゥールの魔法は大地を揺るがし、地面を裂き、近衛騎士やコルネリウスを大地の裂け目へと閉じ込めてしまった。地面をひっくり返すってユストゥスが言っていたけれど、物理的にだとは思わなかった。
「俺の魔法は美しくないだろ?」
何て苦笑いで言っていたけれど、確かにそうね。
森に被害は無かったけれど、街道はぐっちゃぐちゃよ。
でも、屋敷から出てきたユストゥスは感心していた。
「兄様。よく抑えられましたね。いつもより大分控えめじゃないですかぁ。良かったです。みんな生きてて」
「エヴァの前でそんな事をする筈がないだろう?」
って言って二人とも爽やかに笑い合っていた。
私は笑いどころが少しも分からなかったわ。
そして翌日。大地の揺れは王都まで届いていたらしくて、両親も驚き兄姉妹揃ってベリス領へ戻ってきて、アルトゥールとその後の処理に追われていた。
コルネリウスがどうなったのかは、みんな詳しくは教えてくれない。でも、王は息子のコルネリウスが勝手にやったことだと全ての罪を押しつけ、アルトゥールに謝罪したそうだ。
でもアルトゥールは許す気なんて無いみたいで、今後の王の動向をずっと監視していく旨をはっきりと先方に伝え震え上がらせていたらしい。
「お嬢様、そろそろお時間です」
緊張した面持ちで、正装した父が私を迎えに来た。
そして、私の顔を見てるとホッと息を吐いた。
「今日は、変な化粧はしていないようだな。安心したぞ」
「お父様。流石に今日はしませんわ」
「そうだな……おめでとう。エヴァ」
父は私を抱きしめると涙を流した。
というより、それは号泣に近かった。




