37
「エヴァ。朝だよ……。エヴァ?」
「うーん。後すこ……ん? なななななな何してるのよ!?」
目覚めにアルトゥールがいた。しかも人間の。
これはいつもの事だけれど、約束が違う。
「何って……昨夜も一緒に寝たじゃないか」
「で、でも。夜は銀狼でって決めたじゃない!」
「今は朝だけど?」
「……う、嘘つき」
爽やかな笑顔で反論されて、私は苦し紛れにそう呟くことしか出来なかった。
「まぁ。朝から見せつけてくれてしまいやがってですわ。お嬢様ったら」
「ダリア、いたのね。言葉遣いがおかしいわよ……」
「ふふっ。お気になさらず。――明日、旦那様と奥様がお帰りになったら、さぞかし喜んでくださるでしょうね」
「そうだな。エヴァ。明日が楽しみだな」
そう言って満面の笑みを私に向けるアルトゥール。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「そ、そうね」
彼の意見を肯定したら、ダリアが悶えてアルトゥールまで嬉しそうに目を丸くしていた。
明日、両親はどんな反応をするだろう。
両親には迷惑しかかけてこなかったから、喜んでくれたら、凄く嬉しいかもしれない。
この時の私は、午後にあんな大事件が起こるなんて想像もしていなかった。
◇◇
昼下がり、庭でアルトゥールとユストゥスは剣の稽古に精を出し、私はそれを庭の片隅でダリアと一緒に眺めていた。
「ダリア。辺境伯にお嫁に行くって……私、何をしたらいいのかしら?」
「まぁ。行く気満々なのですね!」
「いちいち煩いわね……」
「ふふっ。今まで通りでいいと思いますよ」
「今まで通り?」
「昼間は動物のお世話をして、夜はアルトゥール様のお世話をして差し上げればいいのです。ぐふふっ」
ダリアの笑い方が卑しすぎる。
良からぬことを考えているに違いない。
「……新しいメイドでも雇おうかしら」
「お、お嬢様ぁっ。――あ、でもいいですよ。私、アルトゥール様に雇って貰いますので」
確かに、アルトゥールなら雇ってくれそう。
アルトゥールに目を向けると、二人は剣を納めて屋敷の門を眺めていた。
そして不満そうにこちらへ振り返る。
「エヴァ。また来たみたいだけど?」
「どなたが?」
「あいつだよ。コルネリウス馬鹿王子様」
「え? あの人はもう二度といらっしゃらないのでは?」
すると門の番の者が慌てて庭に駆け込んできた。
「お、お嬢様っ。コルネリウス様が、近衛騎士を引き連れて現れました! お嬢様とユストゥス様を引き渡せと仰っておりますっ」




