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 アルトゥールは銀狼になって華麗に崖をかけ登ると、ウサギを咥えて私のところへと戻ってきた。

 ウサギの怪我を治して野に帰す間、アルトゥールは隣でお座りをして大人しく待っている。


 ウサギを野に放つと、私はしゃがんで目線を合わせ、モギュッと抱きしめた。

 フサフサの尻尾がピンっと突っ張って、アルトゥールの身体が固くなったのが分かった。


 緊張しているのかな。

 そう言えば、ユストゥスと話す時のアルトゥールはちょっと怖い。

 お父様やダリアと話す時は物腰柔らかく紳士的?

 でも、私と話す時は……。


「暖かくて、可愛い。――アルトゥール。こうして毎日モフらせてくれるなら……ずっと一緒にいてあげてもいいわよ。でも、私が好きなのはモフモフなんだからね」


 アルトゥールの尻尾がフニャッとダレると、鼻先が私の頬をくすぐった。それと同時にアルトゥールは元の人間の姿に変わり、私を硬い腕で抱きしめていた。


「エヴァ。ありがとう。愛してる」

「ちょっ。わ、私はモフモフがっ――」

「分かってる。毎日好きなだけモフモフしていいから。ずっと隣にいてください」

「……はい」


 その真っ直ぐな言葉に私は頷くことしか出来なかった。


 ◇◇


 それから、アルトゥールはご機嫌で。

 尻尾はもうないのに、もしあったら高速で揺れているんだろうなってオーラが身体中から出ている。


 ユスがそんな兄を見てずっと笑っているのだけれど、それすら気にならないみたい。


 私達は、ベリス侯爵が帰ってきたらもう一度私との事の許可をもらってからロドリゲス領へ行くことになった。

 ダリアは自分と私の荷造りをもう済ませたらしい。


 あまり話したことのない他のメイド達にも祝福されて、悪い気はしない。でも、恥ずかしくて廊下を歩くのも嫌になってしまった。


 ◇◇


 その頃。

 王都に戻ったコルネリウスは追い詰められていた。


 ベリス領で猪に襲われた時にヘマをした近衛騎士の解雇を請求したのだが、ソイツが宮廷魔導師長の息子だったらしく、国王がカンカンだった。

 ベリス侯爵の娘に暴言を吐いたこともサイリスにバラされ、国王から最悪のお達しが出された。


「隣国の辺境伯の動きが怪しいのだ。こちらが友好的であることを示したい。コルネリウス、しばらく向こうで勉学に励んでこい」

「父上、それって要するに……」

「人質だ」


 当たり前だと言わんばかりの顔で王は平然とそう述べた。


 国王はいつもこうだ。

 第二王子の存在など、無いのと一緒。

 人間扱いされた記憶は一度もない。

 父の関心は全て兄に注がれているのだから。


「そ、そんな……。あ、父上。人質でしたら適任がおります! ロドリゲス辺境伯はベリス侯爵のご令嬢にご執心だそうです。弟のユストゥスがベリス侯爵領に来ているのです。私なんかより、エヴァンジェリーナを差し出しましょう!」


 干物女なんかいらないと言われそうだが、これしかない。

 ロドリゲス辺境伯に、あの女を押し付けてやる。


「なんだと? ユストゥス=ロドリゲスがベリス領にいるだと。兵も連れているのか?」

「いえ。ユストゥスと執事の二人だけだと思われます」

「何っ!? それは好機だ! ユストゥスを捕えよ。見張りを付けていたのだが、一月ほど前から消息不明だったのだ。国に入った記録はないと聞いている。不法侵入の罪で捕えてこい!」

「へっ? 私に兵を任せてくださるのですか?」

「ああ。好きなだけ連れていけ。ついでにベリス領の猪も狩ってこい。宮廷魔導師長の土産にしろ」

「は、はい!」


 初めて兵を任された。

 ピンチが一転、これは大チャンスだ。


 宮廷魔導師長との信頼回復、それから隣国へ圧力もかけられるし、ベリス侯爵への仕返しも出来る。

 そして何より、国王へ自分の存在を知らしめることが出来るのだ。

 やれば出来ると応援し続けてくれている母の為にも、必ずやり遂げて見せる。

 これをしくじれば、後はないのだから。



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