33
ふわふわのモフモフ。私のアルジャン。
アルジャンの尻尾を抱きしめたり、お腹を枕にしていたり、いつも私は至高のモフに包まれて眠っていた。
腕の中にはアルトゥールの尻尾がある。
私は迷うことなくギュッとモフモフを抱きしめた。
こうして求めてしまうのは仕方ないの。
だって、呪いだから。
そう思うと心が楽になった。
でも、尻尾にしては大きいような……。
それに、今日は珍しくアルトゥールが起こしてくれない。
私はゆっくりと瞳を開いた。
銀色の光沢のある毛並みが目の前にある。
それは尻尾より大きくて……?
「あ、アルジャン!?」
私はベッドの上で銀狼のアルジャンと一緒に寝ていた。私の声でアルジャンも目を覚ましムクリと顔を上げる。
首を左右に振り戸惑う様子のアルジャンが可愛くて、私はこれがアルトゥールだろうと思っていても躊躇うことなく抱きしめた。
でも、どうやって狼に?
「ねえ。アルトゥールなの?」
銀狼はベッドの上でお座りしたまま大きく頷いた。
「人間には……戻れるの?」
そう尋ねると、琥珀色の瞳を丸く瞬かせて、じっとアルトゥールに見つめ返された。
人間に戻って欲しいのか? そんな声が聞こえた気がしたかと思うと、鼻を擦り寄せられる。
首をモフモフし返すと、アルトゥールは気持ち良さそうに目を細めて、私をベッドに押し倒した。
「きゃっ」
モフモフに顔が埋められて、くすぐったくて瞳を閉じる。この子はアルジャンだけどアルトゥールだって思うと、じゃれられて嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちになる。そう戸惑っていると、額をペロッと舐められた。
「きゃっ。あ、アルトゥールったら……」
「エヴァ……」
すぐ近くでアルトゥールの声がした。
あら? モフモフを感じない。
恐る恐る目を開けると、眼前に銀髪の美青年がいた。
この状況は……二度目?
「あ、戻れた」
「き、……きゃ――」
「エヴァ。落ち着いて。今ダリアに来られたら……困るし。じょ、状況を整理しよう!」
叫ぼうとしたら口を塞がれた。
珍しくアルトゥールも動揺していて、それを見たら少し冷静になれた。
アルトゥールは素早くベッドから降りると身なりを整えた。その背中には……尻尾がない。
「あ、アルトゥール。尻尾が……」
「あ、本当だ。でも――これからはいつでもアルジャンに会えるかもしれないよ。心当たりがあるんだ」
「心当たり?」
「試してみてもいいか?」
「……ええ。いいけれど何をするの?」
「えっと……」
アルトゥールは何か言いかけて口ごもった。
さっきから落ち着きがなくて彼らしくない。
狼になって言葉を忘れたのかしら。
「アルトゥール。どうしたの?」
「その……寝る前に、エヴァの額にキスをした。今も……。だから――」
「へ……」
「嫌ならいいんだ。無理にとは」
そんな真っ赤な顔で言われたら、私の方が恥ずかしいじゃない。
ここは平然とした態度で返さなくちゃ。
キスなんて減るものでもないし、どうってことないわよ。
それに、さっきみたいにアルジャンを抱きしめたいし……。
「い、いいわよ。アルジャンになれたら、全身ブラッシングさせてくれるって約束してくれるかしら?」
「えっ。いいのか?……じゃあ――」




