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アルトゥールのローブは暖かくてよい香りがする。
良かった。寝てると思ってくれたみたい。
でも、何だか本当に寝てしまいそう。
「お昼寝日和だな」
隣でそんな声がして、そうね。と返事をしそうになって息を飲んだ。
駄目よ。私は寝ているんだから。
「寝ている時のエヴァは、よく寝言を言うから……質問したら、いつもみたいに答えてくれるかな?」
何それ。初めて聞いたのだけれど。
私、そんな事出来るの!?
どうしましょう。答えた方がいいのかしら。
「エヴァの天然のクマ、久々に見た。昨日は眠れなかったのか?」
私は小さく頷いて見せた。
「そうか。でも良かった。クマのお陰で、コルネリウスがエヴァを諦めたから。もう、あの屑の顔は見たくない」
私のクマが褒められる日が来るなんて……なんか不思議だわ。
「でもすまなかった。コルネリウスが酷い言葉を言っていたそうだな。どうしたら魔導師を追い払えるか、それから、エヴァのクマの理由を考えていたから、アイツの声は鳥のさえずりの様にしか聞こえてなかったんだ……」
あ、聞いてなかったのね。コルネリウスの言葉は、アルトゥールには少しも届いていないらしい。
「エヴァのさっきの言葉は、コルネリウスのせいで言っただけなんだろ? それとも本当に、エヴァは昨晩みたいに一人でいた方が幸せなのか?」
私は首を横に振った後、コクリと頷いた。
だって、私はアルトゥールの隣なんて嫌。
今まで通り一人で自由に過ごすことが私の幸せ。
そう言ったのだから。
それが私が一晩かけて出した答えなの。
「そうか。まだ駄目か。エヴァが眠れずにクマをつくってしまったのは、俺がいなくて寂しかったからかなって喜んでたんだけどな。違うのか?」
違……わないかもしれない。一晩中ずっとアルトゥールのことばかり考えていた。
もし狼に戻れたら、とか。
ロドリゲス領の森や動物を妄想してみたり、とか。
「だけど、何度断られても諦めないから。エヴァは俺がいないと、夜も眠れないし、朝食も摂らないようだし」
そうだけど。何で朝食のことまで知ってるのよ。
絶対にダリアだわ。
「それから、無意識の内に、俺のことを名前で呼んでることにも気付いていないし」
「へっ?」
あ。声出ちゃった。
私……そう言われてみたら、アルトゥールって呼んでいるかも。
いつからかしら? やだ。恥ずかしい。
「泣いているエヴァを見たら抱きしめたくて苦しかった。ユスがいたから我慢したし、勝手に触るなって言われたばかりだからしなかった。でも、今なら許可をくれますか?」
許可? そんなの駄目に決まっている。
アルトゥールを受け入れるなんて出来ない。
私は首を横にブンブン振った。
「寝ているエヴァならいつもの百倍は素直な筈なのに……変だな。本当は起きていたりして?」
耳元でそう囁かれて、私は首を横に振る。
やっぱりバレてる?
絶対に起きてるって分かってやってるよ、この人。
「耳、真っ赤。ーーエヴァ。寝ている時に、そうやって何も言わずに身振りで答えてくれたことは、今まで一度もないんだけど?」
「だ、騙したのね!」
「騙してない。寝言をよく言うのは本当だよ。起きがけの時だけど……。おはよう。エヴァ。耳だけじゃなくて、顔も真っ赤だね」




