表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/41

29

「サイリス殿! そんな判断は認めないぞ!」

「そんなことを仰られても困ります。それから、こちらのクマは本物ですよ」

「ほ、本物だと!? まさか、森で会った美少女の方が魔法で変えた姿なのか?」

「は、はい。そうですわ。森の動物を驚かさない為に魔法を施しておりました」


 私は咄嗟に嘘をついた。動物は人を見た目で判断なんかしないけれど、コルネリウスならそれでも信じるだろう。


「だ、騙したのだなっ!」

「えっ!? 昨日までのエヴァ様は偽物だったのですか!?」


 なんか素直な子が騙されてしまったけれど今は無視しよう。

 ユスが驚くと、コルネリウスは面白がって笑いだした。


「はははっ。貴様も騙されたのか? 実際はこんな干物女だ。婚約前に分かって良かったではないか」


 あー。また言いたい放題。

 本当にデリカシーの欠片もない王子様だこと。

 コルネリウスはその饒舌を更に進めた。


「ベリス侯爵が怒り狂って追い返した理由がやっと分かった。こんな娘を世に出したくなかったのだな。一族の恥じとして屋敷に留めておきたかったのだろう。こんな奴は私にふさわしくない。ユストゥス、貴様にくれてやる!」

「お、俺には国に婚約者がっ」

「ほぉ。そうか、この女の本当の姿を見て止めたのだな。確かに、誰かの隣に立つなど不相応だな。それに、見た目を魔法で偽るなど、身も心も荒んでおるのだろう。頼みの魔法も微力で無価値。その上、人が触れただけで拒絶反応を起こす。お前の様な者は、誰にも必要とされず、この小さな屋敷で一生を終えるが良い。お前の薄汚い本性が分かって清々した。失礼するっ!」


 コルネリウスは言い切ると満足そうに門へと足を進めた。サイリスが申し訳なさそうにお辞儀をしてその後へ続く。


 ここまで言われると流石に胃が痛い。

 でも、全部正しい。

 私は誰にも必要になんかされない。

 それでいいの。森の動物さえいたら幸せだから。


 ユスは気まずそうに私へと視線を向けた。


「あ、あの。エヴァ様。あんな奴の言うことなんか……」

「ユストゥス様。変な事に巻き込んでしまい申し訳ございません。ご心配にならずとも、私はこの屋敷に骨を埋める覚悟にございますので、お兄様と早々に隣国へお戻りくださいませ。では――」

「エヴァ。あんな奴の言葉は気にするな。偏見だらけの無能な王子の言葉など聞く価値もない」


 戸惑うユスを尻目にアルトゥールは私を引き留め平然と述べた。

 アルトゥールは彼を無能と言っても良いかもしれないけれど、私なんかがそう思う資格はない。

 私だって、コルネリウスと同じく無能だし、何の価値もないのだから。


「そうですね。ですが、彼の言うことも一理あります。私は誰の隣も相応しくない。私はこの屋敷で、この森と動物達を見守りながら生きていきたいのですから。アルトゥール。私の事は忘れて国へ帰ってください。きっと、貴方に相応しい方が現れれば、その尻尾もなくなるでしょう」


 私なんかいない方が、幸せになれる。アルトゥールの視線を感じるけれど、私は顔をあげることが出来なかった。


「俺はエヴァに隣にいて欲しい。そんな言葉、無理して言わなくて良いから」

「無理などしていませんっ。私は貴方の隣なんて嫌ですから。今まで通り一人で自由に過ごすことが私の幸せなのですっ!」

「じゃあ。……どうして泣いているのだ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ