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ユストゥスは立ち上がると、笑顔を取り繕いコルネリウスに話しかけた。
「コルネリウス王子ではありませんか? こんなところでお会いするとは、いつもお暇なんですね」
「き、貴様こそ、何をしている!? ま、まさか、エヴァンジェリーナに求婚したのは、ユストゥスっお前だったのかっ!」
「は? あー。成る程」
ユストゥスはアルトゥールを一瞥すると、一人で納得した。
そういえば、アルトゥールは言っていた。
コルネリウスとは面識がなく、面倒なことや外交的なことは弟に押し付けてきたと。
「サイリス殿。残念だが、こいつも隣国の人間だ。そこのご令嬢だけさっさと強制入学させろ」
「まぁ。それは残念ですが……。お嬢様、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「あっ。駄目ですよ。この方はロドリゲス伯爵家にお嫁に来ていただくんですから」
サイリスが私へ目を向けると、ユストゥスが慌てて割って入り庇ってくれた。
「ロドリゲス? あっ、隣国の方って……。コルネリウス様、私はこの件には関わりたくありません。外交問題に発展しそうで責任を取れません」
「おいっ。ここまで来ておいて何を言っている!? サイリス殿は教官として国民に厳正な審査をすれば良いだけの事。後のことは私が判断する! さぁ、エヴァンジェリーナの適正を見ろ」
「そんなっ」
狼狽えるサイリスにユストゥスは笑顔を向けた。
「別に審査して構いませんよ。横取りするなら国ごと潰すだけですから……」
「ひぇっ。コルネリウス様っ!? 脅し入ってますよっ」
「ユストゥス。貴様、戦争でも始める気か? しかし、聞いた話によると、実権は兄が握っていてお前に決定権など無いのだろう?」
「ああ。お前と同じだ。俺に権限はない」
「ふんっ。余計なことを……。貴様なんぞに構っている義理もない。サイリス殿、早くしろ」
恐る恐るサイリスは私に近づきしゃがみ込んだ。
「あの……。申し訳ございませんが、顔をお上げいただけますか? 幾つか質問を――ひぇっ」
「どうした……ぅっ。それは化粧だ気にするな」
コルネリウスが私の顔を見るなり目を背け、ため息をつき、ユストゥスとアルトゥールは驚いて固まった。
「今日のこれは化粧ではありません」
「へっ!? どうされたのですか!? い、医者をっ」
ユストゥスも慌ててアルトゥールに視線を送るが、アルトゥールは口元を手で覆い目線をそらしている。私の顔を見て笑っているのかと思ったけれど、目は笑っていないようにも見えて、よく分からない。
「はははっ。ユストゥスにも嫌われたな。だから言っただろう。婚約者を探す前に医者を探せと。まぁ、私なら、そんな嘘つきでも婚約してやってもいいがな!」
「そんなもの必要ありません。それから、このクマは私の標準装備ですからっ!」
「そんな嘘は通じんぞ。それにそれが本物だとしたら、病弱通り越して化け物の範疇だ。みんな怯えで逃げていくぞ」
コルネリウスは呆れて首を横に振り、私の言葉を信じる気はなさそう。
サイリスは戸惑いながらも私の頬に手を伸ばしそっと触れたが、私が身構えたのが分かったのか、その手をすぐに離してくれた。
「私の見たところ、危険視すべき魔力量ではありませんね。健康に不安がある方には、入学の強制はしておりませんので、ご本人様とご家族のご意向を優先させましょう」
「きょっ、強制入学はどうなるのだ?」
「適応外です。魔法の系統も危険な物ではありませんし、受け答えを求めただけで先程よりお顔の色が優れません。人間恐怖症とのお話は聞いておりますし、お身体も弱いのでしょう。寮生活には耐えられないとお見受けします」




