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アルトゥールがユスに呪いをかけられたと勘違いしていたことを説明すると、ユスはまた半泣きになった。
「ええっ!? 俺が呪いをかけたと思ってたんですかっ。酷っ。こんなに心配して、迷子になっても探し続けてたのに……」
「ユスは方向音痴だから、迷子はいつもだろ。……俺は、お前が叔父上と結託でもしたのかと思っていた。そこは謝ろう」
アルトゥールが謝罪を述べるとユスは目を丸くして驚いていた。
「へっ!? 兄様が謝罪するとか……。何か丸くなりましたね。でも、狼の呪いのことは知ってるものだと思ってました」
「そんなこと知らない。ユスはどうやって知ったんだ?」
「叔父上から……あ。兄様、叔父上と仲悪いから知らなかったんですね。でも、俺も何度も忠告したじゃないですか。早く婚約者を作れって」
「それだけじゃ分からないだろ」
「それだけじゃないです! 男はいつか狼になるので、そうなる前にお相手を見つけて愛を育んでおかないと、いざとなった時に困ります。って言いましたよ!」
そう言い張るユスに、アルトゥールは頭を抱えた。
違う意味に取れなくもない。
「……分かり辛い」
「確かに微妙ね」
「そうですか? でも良かったですよ。俺は全く知りませんでしたけど、お相手がいらして。だから女性に興味がないとか、婚約を断り続けてたんですね」
「別にそういう訳じゃない」
「はい?」
「エヴァとは狼の姿の時に初めて出逢った」
「ぇっ。それじゃあ、狼を好きになったんですか?」
興味深そうにキラキラした眼差しを向けるユス。
「お、狼の彼が好きだっただけよ。人間になったから、もう好きではないわ」
「と。まぁこんな感じで嫌いと言われて尻尾が生えたんだ。このままじゃ帰れないし。――どうしたら戻れるか、ユスは何か知らないか?」
「え。確か……父上は狼と人と、どちらの姿にもなれたそうですよ。母が狼な父が大好きだったらしくて。叔父上はそういうのはお嫌いらしいので、狼になったのは一度っきりだそうですけど」
「は?」
「そ、それって、狼に戻れるってこと!?」
「へっ? 戻るっていうか……なんと言いますか……」
戸惑うユスを他所に、私は嬉しくてアルトゥールに満面の笑みを向けたら、彼はそれを気まずそうな顔で見つめた後、口を開いた。
「エヴァ。嬉しそうだね。……俺がもし狼になれたら、結婚してくれる?」
「へ?」
「そういう顔をしていると思ったんだけど。俺がアルジャンにもなれたら嬉しいだろ?」
確かに、すごく喜んでる自分がいて、私はアルトゥールの笑顔から目を反らした。
アルジャンはアルトゥールなのよ。
もしアルジャンになれたとしても、中身はアルトゥール。だからもうアルジャンは……。
「アルジャンはもういないわ。森に住む家族の元に帰ったのよ。だからもう会えなくていいのよ」
「本当にそれでいいのか?……アルジャンの家族はエヴァだよ。エヴァが受け入れてくれたじゃないか。アルジャンという存在が帰る場所は、森じゃなくて……君のところだ」




