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20

 暗闇の中、何かにすがるように握りしめた手を誰かが握り返してくれた。

 大きな手。でも、父や兄の様に力強く握り返すことをせず、優しく私を包む。


 私はふと、アルジャンを思い出した。

 森で見つけた傷だらけの銀狼。琥珀色の瞳と視線が交わった時、昔助けてくれたあの子が生きていたんだって、胸に刺さった矢を見て今度こそ助けなきゃって思った。

 でも、やっぱりあの子ではなくて、本当は人間だった。突然生えた尻尾を見て、アルジャンだって分かったけれど、認めたくなかった。

 それなのに、いつの間にか隣にいるのが当たり前で、心の何処かでこうして求めて頼りにしている。


 そう、この手は人の手。

 だからアルジャンじゃない。これは――。


「……アル……トゥール……」


 ◇◇


 朝陽が眩しくて目が覚めた。さっきまで、大きな狼の尻尾にグルグル巻きにされるという至福の夢を見ていた気がする。身体は温かくてまだ夢見心地だ。


 胸の中のいつものモフモフをギュッてしようとしたけれどなにも無くて、アルジャンの尻尾を手探りで掴もうとしたら身動きが取れなかった。

 何かおかしいと思ってそっと目を開くと、私はアルトゥールの腕を枕にして抱きしめられていた。


「ぇっ……アル……」

「エヴァ……起きた?」

「な、ななな何してるのよっ」

「ぇ? 何って……。ぁ、いつもと逆だな。嫌だった?」

「い……」


 嫌じゃないけど。って言おうとした自分に驚いて言葉が詰まる。

 言い返す言葉を考えていたら、アルトゥールが私の頭を優しく撫でた。

 何でだろう。安心する。


「エヴァが俺の名前を呼んで、握った手を引いたから……つい抱きしめてしまった。そしたらエヴァ、泣き止んだから」

「ぇ……。あ、私」


 コルネリウス様と話している時に倒れたんだわ。

 あれからどうなったのかしら。


「もう平気か?」

「ええ。――でも、そろそろ離してくれないかしら?」

「俺はこのままがいいんだけど――。はいはい離しますよ」


 アルトゥールは私から手を離してベッドに胡座をかいて座った。

 銀色の尻尾がユラユラ機嫌よく揺れている。

 もしかしたら尻尾は無くなってしまったのかと思ったけれど、あって良かった。


「ねぇ。コルネリウス様が、私が魔法を使ったのではないかと探ってこなかったかしら?」

「ああ。俺がやったことにした。それからエヴァが隣国の辺境伯から求婚されていることも話したぞ」

「え? 何故そんな話に……」


 アルトゥールは私が倒れた後の事を話してくれた。

 コルネリウス様は唖然としたまま父に追い出されたようだけれど、しつこそうな奴だから不安が残る。


「アルトゥール。昨日はありがとう。でも、勝手に私に触れないでね」


 私がお礼を言ったからか、アルトゥールは何度か瞳を瞬きして、それから凄く嬉しそうな顔で見つめ返してきた。


「――ん。分かった」


 そう呟くようにして頷いたかと思うと、アルトゥールは急に尻尾をピンと立てて窓の方を振り返った。


「ど、どうしたの?」

「エヴァは、絶対に部屋から出るなよ」


 張り詰めた声でそう言うと、アルトゥールは着替えてローブを羽織ると同時に扉がノックされてダリアの声がした。


「アルトゥール様っ。隣国の使者の方がいらしています」

「今、行く」

「えっ。アルトゥールを探しに来たのかしら?」

「さぁ? どっちかな」


 どっちって何? 選択肢が思い浮かばないのだけれど。


 アルトゥールは不敵な笑みを残して部屋を出ていった。






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