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 エヴァンジェリーナの腕を掴み、彼女が振り返った瞬間、とてもよい香りがした。それは泥塗れの森で嗅いだ美少女と同じ香りだった。


 彼女は触れただけで震えていた。

 何故かと聞いても、言葉を返せないほどに。


 私が触れている右腕に視線を落とすと、森で私が握った手の跡が白い肌にうっすらと残っていた。顔を覗くと病的なクマの痕が化粧だと分かった。


 そんなに私と婚約するのが嫌だったのか。

 そう憎らしく感じた時、意識を失った彼女の瞳から一筋の涙が溢れた。


 そうだ。エヴァンジェリーナは幼少の時に誘拐されて心に傷を負ったと聞いていたじゃないか。きっとこうして辛い思いを避ける為に、私から離れようとしたのだ。


「お言葉ですが、お嬢様にはそれは逆効果で……」


 メイドの言葉を私は却下した。私が触れることで彼女が苦しむと分かっていても、自分の手で助けたいと思ってしまったから。


 ◇◆◇◆


 エヴァが下に降りてからどれくらい時間が経っただろうか。あの顔を見て、コルネリウスが謝罪の言葉を素直に述べることが出来るのか疑問だ。


 でも、エヴァが戻ってきて、彼女の顔を見ればきっと答えは分かるだろう。エヴァは気持ちが全て顔に出るから分かりやすいのだ。


 俺が人間に戻った時の顔は酷かった。

 まるで親の仇のような目で睨まれた。


 前日までは慈愛に満ちたエメラルドの瞳で見つめてくれていたのに。

 でも、怒った顔も可愛い。尻尾にじゃれる姿も、嫌いだと言って顔を背けた横顔も。


 エヴァと一緒にいられるのなら、もう銀狼のままでもいいとさえ思っていた。しかし、弟が言った通り、人間に戻れた。

 エヴァがまた俺を愛してくれたら呪いは解けるのだろう。だけど、この尻尾が無くなったら、きっとエヴァは悲しむだろうな。


「犬でも飼うか? いや、犬にエヴァが取られてしまう……」


 犬しか構ってくれなくなりそうだ。

 やはり俺自身がもっと好かれないと。

 ファウスティーナ様からの助言通り、俺はエヴァと四六時中過ごした。


「エヴァは元々優しい子だから、寄り添ってあげれば直ぐに懐くわ」


 そう言われたので、エヴァのしたいことを自由にさせて見守ったり、時には一緒に動物の世話をしたり、手助けしたり。


 まだ一度も名前を呼んでくれないけれど、近しい者しか入れない領域には入れていると思う。

 エヴァはダリア以外のメイドや執事と会話をすることも、触れ合うこともしない。

 それに、コルネリウスに触れられた時の反応は――。


 廊下から足音が聞こえて、俺は身構えた。


 一人はダリア。

 でも、もう一人はエヴァではないからだ。


「コルネリウス様が入られますっ」


 扉が開くと同時にダリアがはっきりとそう告げて、その後ろからエヴァを横抱きにしたコルネリウスが部屋へ入ってきた。


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