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 コルネリウス様は私が入室すると、あからさまに顔色を悪くさせた。


「お父様。お待たせ致しました」

「ああ。エヴァ……。はぁ。座りなさい」


 父も私の顔を見たら顔色が悪くなった。

 ごめんなさい。心臓に悪い顔をしてますね。


 コルネリウス様は私の方を見ないようにして父に向かって口を開いた。


「ベリス侯爵様。先日は失礼致しました。心より謝罪を申し上げます」

「コルネリウス様自らいらしてくださるとは驚きました。ですが、私ではなくエヴァに謝罪していただきたい」

「はい。エヴァンジェリーナ様。先日は失礼なことを――――いや。やはり私は悪くない。その顔である貴女が悪い」

「こ、コルネリウス様っ!? それはっ……」


 父は多分、それは言い過ぎだと言いたかったのだと思う。

 でも、私の顔を見たら押し黙ってしまった。

 破壊力全開でごめんなさい。

 でも、謝ってくれると期待していたのに残念だけれど、コルネリウス様に何か期待することが間違っていたのだ。

 

「こちらをお納めください。私と父からの気持ちです。エヴァンジェリーナ様が化けも……コホンっ。病気から回復されることを祈ります」


 今、絶対に化け物って言おうとした。父も私の気付いているのか、眉がピクッと吊り上がった。


「コルネリウス様。ご安心ください。エヴァには別の縁談が持ち上がっていますので」

「は?」

「お父様っ。そんな空想はお止めください」

「エヴァ。空想などではない。きっと上手く行くさ」

「……お言葉ですが。婚約者を探す前に、ご病気を治された方が懸命かと。また逃げられますよ」

「な、何だとっ。エヴァは今日も特に調子が悪く――」

「いつまでもそう言っていないで、娘の顔を真正面から見た方がいいですよ。では、失礼致します」

「け、けしからんっ。もう二度と屋敷に来るなっ!」


 コルネリウス様の言葉に、父は真っ赤な顔で憤慨し、彼の背中に向かって怒鳴り散らし、震える拳をテーブルに叩きつけた。

 

「お父様。落ち着いてください」

「エヴァ。お前のその顔は……今は見たくない。部屋に戻りなさい」

「はい。申し訳ございません」


 滅多に怒らない父は酷く疲弊していた。これはコルネリウス様のせいではない。私のせいだ。

 私は父に深く頭を下げた後、部屋を後にした。


 廊下へ出ると、コルネリウス様の声が聞こえた。

 

「他に使用人はいないのか? 執事のアルジャンを連れてこいっ」

「ですが……」

「はぁ。使えない奴らばかりだな。――お前は……。エヴァンジェリーナ。お前は知らないか? アルジャンという執事がいつ戻るのか。そいつと一緒にいた女性に話があるのだ」


 うわぁ。本当に探してるんだ。

 謝罪しに来たくせに我が物顔で屋敷を跋扈(ばっこ)しないで欲しい。

 私は距離をとったまま顔を反らして答えた。


「……後程アルジャンに尋ねておきます。では」

「待て。お前、何処かで会ったことがないか? さっきも気になっていた。聞き覚えのある声だと……」

「姉妹で声が似ているといわれます。そのせいでしょう。失礼致します」


 私は雑に礼をしてその場を離れた。

 しかし、何故か彼はついて来た。


「まだ話の途中だっ」

「きゃっ」


 右腕を掴まれて後ろに引き戻されて、全身に緊張が走る。離して欲しい。そんな言葉すら声にはならなくて、震えを我慢しながら俯いて、何とかその場に立つ。


「その女性は魔法が使えるのかもしれないのだ。私の怪我が治っていて――どうして震えている?」


 コルネリウス様はそう尋ねて私に顔を近づけた。

 怖くて息が吸えないし言葉も出ない。


「お、お嬢様はご気分が優れませんので、後は私がっ」


 ダリアの声がして、私はその場にしゃがみ込んだ。それでもコルネリウス様は手を離してくれなかった。


「いや。私が運ぼう。君ではエヴァンジェリーナを抱えられないだろう」

「お言葉ですが、お嬢様にはそれは逆効果で……」

「私に指図する気か? 部屋へ案内しろ」


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