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「エヴァ。女性って本当に、化粧で化けるんだね」


 鏡に向かい化粧をする私の後ろで、アルジャンは感心している。


「どうかしら?」

「うーん。あまり言いたくは無いけれど、結構酷いよ」

「誉め言葉だわ」


 私はまた、目の下クマ盛り盛りメイクをした。


 コルネリウス様は私と父に謝罪をしに来たらしい。

 ついでに慰謝料も持参したとか?

 わざわざ本人が来るなんて、相当お姉様に脅されたのだろう。

 しかも、猪に襲われて泥だらけになって……可哀想に。


「無理はするなよ?」

「どうして?」

「さっきの事。……コルネリウスに触れられた時、様子がおかしかったから」

「ぁ……そうね。やっぱりまだ、家族以外の人だと萎縮してしまうみたい」


 アルジャンモドキには拒否反応を起こさなかったから、治ったのかと思ったけれど、やっぱり違った。

 人に触れられるだけで恐怖が込み上げてくる。


「傍にいてあげたいけど、部屋の中でローブを着ているのはおかしいしな……」


 鏡に写るアルジャンは、悩ましげに尻尾をユラユラさせて言った。外では上手くローブで隠せたみたい。


「アルジャンは私の部屋から出ないで。隣国の辺境伯様がベリス侯爵家にいて、尚且つ、尻尾が生えているなんて。説明が大変だから」

「分かった。エヴァ……」


 名前を呼ばれたかと思うと、アルジャンに背中から抱きしめられた。

 やっぱり、アルジャンだと嫌じゃない。


 でも、今日は一体どうしたのだろう。

 同じ部屋にいても、アルジャンから触れてくるなんて普段はしないのに。

 首元にアルジャンの銀髪が触れ、肩に吐息がかかる。


「アルジャンって認めてくれたのか?」

「え?」

「今、そう呼んだ」

「ち、違うわ。今は執事のアルジャンなのでしょう? だからよ」

「そっか。――俺は、怖くない?」

「……うん」

「何か、嬉しい。エヴァ――」


 一層アルジャンの手に優しい力がこもったかと思うと、扉がノックされダリアが入ってきた。


「お嬢様。コルネリウス様がっ!? きゃっ。イチャイチャ中でしたか失礼しましたっ。ご馳走様です」

「ち、違うわっ」


 私がアルジャンを払って振り向くと、ダリアはさっきよりも大声で叫んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!? 何てお顔を……。でも、その方が良いかもしれませんね」

「あら? 似合ってるかしら?」


 は? と全力で否定してダリアは言葉を返した。


「ですが、最近のお嬢様は、お肌も透き通ってスベスベで、唇もプルんプルん。髪もツヤッツヤでお美しくなられましたから! そのままお会いしたらうっかりコルネリウス様に好かれてしまうかもしれません」

「ダリア。それは一理あるけれど、エヴァは初めから美しかったよ」


 アルジャンのボケにダリアが悶絶する。

 この二人のやり取りにも大分なれてきた。


「まぁっ。そうでした。失礼致しました。――あっ。コルネリウス様が下で騒いでおりますので、さっさと面会されて追い返していただけますか?」

「騒いでるって……。謝罪は聞いて差し上げますけど、私はあの方に言葉なんてかけないわよ」

「はい。お顔を見れば、驚いてお帰りになるかと思いまして」

「そうね。でも、謝罪に来た分際で何を騒いでいらっしゃるの?」

「それが、シェレスティーナ様に妹がいるのではないかと仰られて。そんな方はおりませんと申し上げたら、執事のアルジャン様を出せと仰って。今は森へ行っていますと言うことにしてお伝えしたら、メイド全員に会わせろって」

「それって、エヴァを探してるってことじゃないか?」


 アルジャンがほら見ろといった様子で私に目を向ける。


「ぇっ。そんなことは、無いのでは……」

「どういたしますか? お嬢様の顔面の破壊力は半端ないですから、お気付きになられることはないかと存じますが」

「そうね。行って追い返してくるわ」

「だけど……」

「お父様もお母様もご一緒ですし、大丈夫よ」


 心配するアルジャンに私は笑顔を向けた。

 だって、コルネリウス様が謝るところ、見てみたいもの。


「あ、奥様は部屋で休まられています」

「あら、何故?」

「泥塗れのコルネリウス様をご覧になって、笑いすぎて腰を痛めてしまったのです」


 お母様らしいけれど、それは自業自得だわ。




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