12
「――ヴァ。起きて。――エヴァ」
「んー。……起きたわ。でも、まだ寝る」
だって、モフモフ最高なんだもの。
腕の中はフワフワ。ムフフ。
「でも、ダリアが見てるよ」
「ダリア?」
目を開けると目の前にアルジャンモドキの綺麗な顔があって、私は名残惜しかったけれどモフモフを手放して距離をとった。
「お嬢様。ご機嫌うるわしゅう。仲がおよろしいようでダリアは朝から幸せにございます」
目覚めは最悪だ。
でも、ダリアはご機嫌だし、家族もみんなニヤニヤしてきて本当に鬱陶しかった。
だけど皆、アルジャンモドキのアルジャン(尻尾)の存在を確認すると、つまらなそうに口を尖らせていた。
尻尾がある=愛し合っていない。
そんな方程式が家族の頭の中には出来ているみたいで、それが一週間も続くと、父はアルジャンモドキに変なことを頼み始めた。
「色香のいの字もない娘ですが、どうかもらってやってください」
「勿論そのつもりですよ。エヴァさんが俺を認めてくれれば……。ははは……」
一緒に過ごす内に、アルジャンモドキの方が家族よりまともに見えてきた。
言動は柔らかいし、私の嫌がることもしない。
睡眠時間とお手入れに関してはちょっとうるさいけど、もう慣れてしまった。
それに、アルジャンモドキは色々と役に立つ。
最近森に住みついた猪さん。それが本当に荒々しくて、元々いた動物達との縄張り争いが加熱しちゃって困っていたら、その猪を一撃で仕留めて森の奥の山の方へと追い返しちゃった。
あの山の向こうはもう国外になるけど、隣国まではずっと山しかないから、きっと猪さんも平和に暮らしていけるでしょう。
まだ何頭か森でフゴフゴ鼻をならしているみたいだけど、害はないから良し。
他にもアルジャンモドキは役に立っている。
狼になってから鼻が利くらしくて、怪我した動物をすぐに見つけてくれる。普段だったら夜にしか会えないモモンガさんも、怪我をしていたのでアルジャンモドキが見つけてくれた。
私がモモンガに回復魔法をかけると、隣でアルジャンモドキが呟いた。
「エヴァの魔法は暖かいな」
「……貴方だって使えるのでしょう?」
「俺の魔法は美しくない。――ん? 他にも血の匂いがするな」
アルジャンモドキは街道に近い森へと視線を伸ばし首をかしげている。尻尾アルジャンが地面スレスレでゆっくりと揺れているから、警戒しているみたい。
「治療は終わったわ。案内してくれる?」
「ああ。でも――人の血の匂いがする。猪とやり合ってるヤツが居るのかもな。気を付けろ」
アルジャンモドキは今までに見せたことの無いような鋭い目付きで言い捨てると、馬へ跨がった。




