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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
9/42

こちら、裏総務部 秘密処理課 6

進藤竜二の朝は早い。


高級マンションの高層階の一室。

モノトーンを貴重とした家具に、整理整頓された部屋は、一人暮らしには広過ぎるリビングをさらに広く見せている。


進藤が朝6時にジョギングから帰り、シャワーを浴びていると、玄関から人が入ってきた音がする。

気にせずにそのまま身支度を整え、一度リビングに顔を出し、部屋に来た人物に挨拶をする。


「じい、おはよう」

「おはようございます、ぼっちゃま」


じいと呼ばれた70代の男性は、進藤に一礼し朝食の準備を進める。

進藤は、テーブルの上のスマートフォンを見て、再び身支度を再開する。


「今日はパーティでございますね」

「あー、そうなんだよ。

なあ、このスーツって変じゃない?」


今日は会社主催の社員向け交流パーティがある。

パーティは、若者の交流、つまり独身向けの出会いを定期的に提供するのが目的だ。

最近海外支部から日本に帰ってきた進藤は、初めて参加する。


「うーん、いつも通り過ぎですな。もう少し色を入れてみては?」

「そっか。じゃあ、ちょっとネクタイ変えてみるな」


自分の部屋に戻ろうとするが、その前に再び自分のスマートフォンをチラッと見る。


「ぼっちゃま、先週からスマートフォンをよく見てますが、何か・・」

「え?あ、あ、ああ、なんでもねーよ!」

そう言って、慌ててスマートフォンを持って、自分の部屋に帰っていった。


(ぼっちゃま分かりやすぅ。)


竜二とじいは二人で朝御飯を食べ、「今日は夜ご飯要らないからな」と言って出勤していった。


※※


総務部第三課は、大きな仕事が片付き、落ち着いている。


「そう言えば、今日はお見合いパーティらしいね」

雑談に貫田は奈津美に話しかける。


「ああ、そうなんですね。一回だけ参加したことありますよ」

「山下さん、そういうの行かなそうなのに」

「新人の一番最初の時、なにも知らずに、先輩の誘いを断れなくて」

「どうだったの?」

「私には向かないから、早々に帰ってしまいました。

社用携帯はオフにして、必ず私用の携帯を持参するっていうパーティのルールのエグさに引いちゃって」

そもそも、恋愛偏差値が低い奈津美が、そんなオフィシャルな場でどうにかなるはずがない。

それで何かあるなら、人生で一度くらい何かイベントがあったはずだ。

お膳立てされると逆に恥ずかしさでハードルが上がる非モテの特性を、この企画を考えた人は知らないのだろう。


「それ以降、招待のメールも来なくなりました」

「それ、たぶん企画部のリストから漏れちゃってるだけだよ」


総務部第三課は、社内の部署一覧にも掲載されないら影の部署だ。

担当者が奈津美の存在を漏らすのは仕方がない。


「こんな部署にいるから、なんかごめんね。

行きたいなら今から問い合わせするけど」

「いえ、全く」

「良かった、じゃあお願いがあるんだよね」

「はい?」


なんでも、10分ほど前に、警部部から「ネズミが入った可能性がある」と連絡があった。

ネズミとは、部外者が社内をうろついている、ということだ。


だが、ゲートの受付リストに不審な点はなく、入館数だけが不自然に1人多い。

受付嬢が不正していることはなさそうだ。

防犯カメラも不審な点はない。

もしネズミが今日入るなら、夜から社内で行われるパーティの隙を狙って、社内をうろつく可能性が高い。


「山下さんには悪いけど、パーティが終わるまでグルっと社内をパトロールしてきて」

「はい」

奈津美は、今日の夜も予定がないので、残業歓迎だった。


念のため、デスクに挟んだ社内の部署マップを確認し、ルートやネズミが出やすそう場所をチェックしておく。


(あ・・)

机のマットに、進藤から渡された連絡先のメモを挟んだままにしていたのを思い出した。


(今日も主役だろうは。特に連絡することないからいいか)

メモはそのまま机のマットに挟まったままにする。


※※


18時半、本社ビルのイベント用の大きな会議室をぶち抜いて、20代、30代を中心とした若手社員がシャンパン片手に部署を越えて交流している。


女性は、化粧ばっちり、いつもよりフワフワした素材や少し露出の多い服で、ここぞとばかりに勝負している。


男性も、普段無口な人が饒舌になり、フロア全体がフワフワと浮かれていた。


会社としては、優秀な女性社員が結婚して退社しないように、社内で結婚させて勤務調整により長く働かせたい。

何より将来の幹部候補の男性には、外の変な女性が寄り付く前に、身元も性格もしっかりした社内の女性をあてがい、早く結婚させて落ち着かせ、仕事に精進させたい狙いがある。


今回は社長の息子がいるため、女性、およびお目付け役の気合いが半端ではなく、すでに会場がヒートアップしている。


社長の息子本人は、お見合いパーティとは聞いているが、周囲の熱量とは違い、みんなと楽しく過ごしたいな、くらいしか思っていない。


簡単な挨拶のあと、早速交流が始まり、進藤の周りには人だかりが出来ていた。


進藤自身、パーティは好きな方だ。

普段話せない人と話せることが、単純に嬉しい。また、普段会っていても、こういう場ではプライベートの話ができ楽しめる。

社交を自分を売り込む場と張り切る人もいるが、進藤は、自分も相手も楽しむことが、一番の売り込みだということを肌で理解していた。


そして、その進藤の取り巻きを、さらに遠くから見つめる人がいる。

(ふむ、あのお嬢さんが、今井財閥の孫娘さんか、ぼっちゃまに興味がありそうだが、プライドが高く自分からは行かないようだな。

お、あれがバレンタインリストの手作りをいきなり送ったお嬢さんか)


パーティの様子を、デリバリー業者に扮してチェックしている人が複数人いた。


※※


奈津美は、電気が暗くなった廊下を一人歩く。

どうやったらゲストの入場者が受付より一人多くなるのか、ずっと考えていた。


※※


地下三階、総務第三課の部屋にもまだ明かりがついている。


「久しぶりだね、貫ちゃん」

「やっぱり、あなたでしたか、三枝さん」

進藤の爺やこと、三枝は貫田に挨拶をする。

「お待ちしておりました、さ、お茶どうぞ」


貫田が三枝をソファに座らせる。


「今日、ネズミが入ったと聞きまして。

まだ入場カードを持つあなたなら、と思ったのです。

それに、今日は竜二様のお相手のお目付けでしょう」

「相変わらず鋭いね、君。そうなんだよ。

美しいお嬢さんが多くて、目の保養になったよ。」

「あなたのお眼鏡にかなうお嬢さんはいました??

竜二様のサポート業務も、長くなりましたね」

「お嬢さん方は、どうかな。

でも、今楽しいよ。仕事してるときも楽しかったけど、今の方が、孫と一緒に住んでるみたいで楽しい」


三枝には子供がいないため、本当に孫と思っているのかもしれない。


「それにしても、最近ここの部署が暗躍してるそうじゃない」

「部下が非常に優秀でして」

「部下?」

「はい、若い女の子なんですが、本当に鼻がきくんですよ。

そこの席ですが、今はここに来ないようにパトロールしてもらってます」


三枝は、奈津美の席を見て、挟まっていたメモに目を留める。


「ここ一ヶ月くらい、ぼっちゃまが毎日楽しそうに出社してて、ね。

こんなに楽しそうなぼっちゃま最近見たことなくて、何させてるのか聞きたくなって今日来ちゃった」


「ここ一ヶ月は、薬物依存の社員の張り込みして、地味な仕事だったはずですが。

あ、ハニートラップやって貰ったんですよ」

「え??そんなことさせたの??社長には言えないね」

はははと、二人で空笑いする。


「ただ今戻りました。あの、」

「「!」」

二人で話し込んでいて、奈津美が帰ってきたのに気づかなかった。


「ご苦労様、こちらは三枝さん、もと私の上司なんだ」

「はあ」

今は20時30分、こんな時間に来客なんて何者だろう。


三枝は奈津美の顔を見て、息を飲む。

何度も、様々な角度からジロジロ見る。


「あの、私の顔、何かありますか?」


「失礼しました。お嬢さんお名前は?」

「山下奈津美です」

「はあ、シンデレラはここにいたか」

「はい?」


「いたっ!」

突然片ひざを付く三枝に、驚く奈津美と貫田。

「腰が抜けてしまった」

「えっ??」

(さっきまで元気だったよ)


「すまんが、奈津美さん、進藤竜二さんに連絡して貰えるかな??」

「進藤くんですか??」

「迎えに来て欲しいんだ。

今日は社用携帯の電源を切っているはずだ」

「そーですね。

私、私用携帯の連絡先知ってますけど」

チラリと机を見る。


「連絡して貰えるかい?」

「やってみます」


奈津美は社用携帯を持っていない。自分のスマートフォンを出して、進藤のラインのIDを入れ友達登録の依頼を送る。


すると、3秒後には返信が来た。

(はやっ)


ナツミ:パーティ中なのに、ごめんね。三枝さんが腰を抜かして、今三課にいるんだけど、進藤くんを呼んでます


リュージ:まじ?すぐ行く。


ナツミ:ついでに地下警備室一階で車椅子借りてきて。連絡しとくから、寄って来て。


リュージ:りょーかい



奈津美は急いで警備室に連絡し、車椅子の手配をした。

10分以内に進藤が車椅子を持ってきた。


「じい、来てたのか。教えてくれたら良かったのに。大丈夫か?」

「ぼっちゃま、すみません。

このじい、ぎっくり腰になってまって。歳ですな。

奈津美さん、車椅子ありがとう」


「同じマンションの違う部屋に住んでるから、俺がタクシーでじい連れて帰るよ、ありがとうな」

「気を付けてね」


奈津美は、この爺さん何者?と思いながら見送った。


「じい、腰抜かした割に、嬉しそうだな」

「んふ、そうですか?」


エレベーターの前で急に元気になり、シャキシャキ歩き出した。


(ぼっちゃんが大切にしている写真の女性と、こんなところで会えるとは)


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