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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
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こちら、裏総務部 秘密処理課 16

山下奈津美は、料理教室に来ていた。


きっかけは、ランチでのことだった。

奈津美が一人で時間をずらしてランチを食べていたところ、隣の席の人がスマホを忘れた。


食堂のスタッフに忘れ物を預けた。

次の日も、同じようにハンカチを忘れて、


「営業部の辻井です。食堂の方から、忘れ物を同じ方が届けてくれたと聞きました。

本島に助かりました。」


辻井は、奈津美と同じくらい目立たない黒髪に黒淵メガネの、背は166㎝くらいの地味な男だった。


どうしてもお礼をしたいといい、食堂でランチを1回奢ってもらうことになった。


いつもなら、男性からの食事の誘いは遠慮するが、見た目から圧がなく、食堂、しかも奈津美は2回も助けたのだから、いーか、と奈津美にしては珍しく承諾した。


そして、ランチのとき、なんと辻井はお菓子作りが得意なこと知り、副業でお菓子づくり教室をしているという。


お礼に、無料で参加させてくれると言うから、奈津美は喜んで参加したのだ。


奈津美は普段、友達もいないため、女子の料理教室が初めてで、とても楽しかった。


そして、お菓子づくりの包丁、まな板、ボウルのセットを、気がついたら20万円で買っていた。


※※※


「なっちゃん、それ、典型的なねずみ講ね」


監査部の行成とは、奈津美は仲良しだった。

行成は、実は心は女性であることを隠して生活している。しかし、奈津美だけは知っていて、しかもBL本を貸し合う仲だ。

奈津美の前では、女言葉だ。


奈津美は、料理教室で習ったチョコマフィンを家で作り、行成にあげた。


「なっちゃんが突然料理とか言うから、おかしいと思ったのよ。」

はぁ、と行成はため息をつく。


「でも、20万円でお菓子が作れるようになったら、安いでしょ!」

奈津美は言う。


「あのねー!20万あったら、どんだけお菓子買えるのよ!もう、目を冷ましなさい!営業部の辻井、ね。」

行成は目を光らせる。


「もう!行成さん、会社で罰とかしないでよー。辻井さんは、料理下手な私に教えてくれたただけなんだからー!」


「なっちゃん、ねずみ講はね、恋愛関係とか、ママ友とか、ちょっと孤独そうな人を狙って、心の隙間を埋めるように最初は近づくのよ。」


「そんな、弱くないもの!」

「なっちゃんのメンタルの強さは、知ってるわ。でも、普通の友達が欲しかったんでしょ」

「…う、」

「なっちゃんは、いつもご飯一人で食べてるから、辻井は前から目を付けてたのよ」


「そんなわけない…よー、会員代も立て替えてくれたし」


「ばか!そうやって会員にしておけば、自動更新とかされて、引き落とされるわよ!説明はあった?」

「なかった、かも。」


奈津美は自信がなくなる。


そして、次の料理教室で、魔法のピーラー2万円を勧められた。

奈津美は少し自信がなくなる。


辻井から、一生ものだから、と聞くが、さすがに、ただの皮むきに2万円は高い。


そして、「友達を紹介して欲しい」という辻井の言葉は決定的だった。


※※


「友達がいないって知ったら、辻井さんから連絡こなくなっちゃった」


ちょっと落ち込んで見える奈津美。


「まぁまぁ。これで目が覚めたでしょ」

こくりと頷く。


「20万円で、社会の勉強代と、チョコマフィンがあんなに上手にできるようになったんだから、トントンって思わなきゃね」


行成は奈津美を励ます。

友達がいない奈津美を狙って、こんなに落ち込ませるなんて、酷だ。


が。


「そうだね。

昨日、新藤くんが怒って、辻井さんにチクりと言ってくれたんだけどね、」


(もう!それから、ゆっくり追い詰めようと思ったのに、若造が余計なことして!)と行成は思う。


「新藤くんと辻井さん見てたら、昼はキラキライケメンの先輩が地味な眼鏡くんを叱るけど、夜は地味眼鏡くんが意地悪に攻めちゃうBLを思い付いちゃって。


それで一冊書けそうなのよ!それ考えたら、20万円って安いなって!」

新たな妄想で、奈津美の目はキラキラして、頬は上気している。


「……で?」


「料理が上手いから、夜のそっちの料理も、なんてね!

ついでに、昨日新藤くんにマフィンあげたら、お礼にって、高級レストラン予約してくれたー、安い小麦粉焼いて、得した気分よ」


「なっちゃん、あんた人の心があるのか疑わしいくらい、メンタル強すぎよ」



辻井は、社長の息子新藤からの一言に戦慄し、社内では活動を控えた。

社内で、ねずみ講の禁止が通達された。


が、期間を開けてまたやってしまったため、それを狙っていた監査部の行成により現行犯を押さえられた。


奈津美が騙されたことを不服に思う男達の(勝手に燃える)復讐により、鼠取りに捕まったのだった。

他作品の連載のため、こちらを少しお休みします。

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