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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
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こちら、裏総務部 秘密処理課 3

進藤竜二は、出社前に電車の中で大きく深呼吸をする。

ガラになく、緊張している。

スマホのカバーの裏には、1枚の古い写真があり、それをじっと見る。


その日から、期間限定で監査部付けになり、社内の裏の部署総務部第三課に一時的な預かりとなった。


表向きにはニューヨーク帰りのお坊っちゃまがいろんな部署を見て回る。

真の目的は、会社の暗部を見て人脈を作れるようにと、人事部長から面倒見係の行成に突然指示があった。


正直、この裏の総務部にとっては、花形部署が似合うキラキラしい男など、扱いづらい。


裏総務の2人へのあいさつが終わり、さっそく4人で打ち合わせる。

奈津美が涙目になっているのを、誰も気づいていない。

「山下さん、昨日のパーティで何か掴んだ?」

社内では、出来る男を地で行く行成。

多重人格でないのかと思う。


「はい、貫田課長にはご報告したのですが、社外のサーバーではないかと思います。」

「・・・なるほど、な」


「バックアップ用に、社外のサーバーは存在しているのは知ってるよ。でも、そこのサーバーには暗号化されてデータが入っていて、委託会社の社員が抜き出しても意味がないはずだよ」

貫田課長はのほほんと言うが、もの凄い情報だ。


「・・・貫田課長、凄いですね」

行成は素直に驚く。

「漏洩した情報は、的確に売れるものだけでした」

「つまり、引き出したのは委託会社、その引き出す内容の指示をうちの社員がやったってことでしょうか」


「山下さん、調べられる?」

「やってみます」

「あの・・、俺はなにか・・」

いつもの裏総務のやり取りが終わった後、進藤がはじめて声を出す。


「もう少し、情報が集まったら、君にもお願いするね」

貫田課長が七福神の笑顔で答える。

奈津美は、進藤が中学のことを言い出さないかハラハラして、一刻も早く出ていけ、としか思っていなかった。


次の日の早朝4時、奈津美は斎藤由美さんの机の上のPCをこっそり開き、サーバーの会社とのメールをうUSBにコピーする。

人事部から極秘で全員のメールを見る権限を与えられている。


自分のデスクでゆっくりメールを確認する。

メールの文章自体は至って普通なのだが、何かひっかかる。


暗号めいたものも、見当たらない。私用のメールでやり取りしているのだろうか。


・・・!日付だけしか書いていないが、すべて火曜と金曜日だけだ。


奈津美はピンと来た。これは浮気だ。

曜日が決まったメールは浮気に多いのだ。

ということは、相手の男はこのメールの宛先。

そして今日は金曜日、ちょうどいい。


さっそく、行成と貫田課長に報告し、その日のうちに尾行してみることになった。


が、ひとつ大きな問題が発生した。

その日、行成はどうしても出席しないといけない会合がある、貫田課長とではデートでなくこちらも不倫のようになってしまう。


そこで裏総務に来たばかりの進藤に白羽の矢が立つ。

奈津美は吐くほど嫌だった。

が、貫田と行成に、過去のことを話していないため決まってしまった。


そして、ついに二人きりになってしまった。


「君、北松中学の山下だよな?」

「そうだよ。進藤くん」

「よかった、絶対そうだと思った」

笑顔で言う。

ひとつも良くない。

奈津美は、いじめられた記憶が蘇り、なんでこいつはこんなに平気に話しかけられるのかと、呆れた。


知っている。いじめられた方は、何年も覚えていても、いじめた方はすぐに忘れてなかったことになるのだ。


こっちは、あなた達のせいで、男性恐怖症なんですが。絶対に必要以上に関わりたくない。


「あの、私男性恐怖症なので、1m以内に近寄らないでくれますか?」


「・・・・俺が、お前をからかってたの、まだ怒ってるのか」


「・・・話しかけないで」


あなたにとっては(まだ)かもしれないけど、私にとっては傷は全く癒えていません。

あなたにとっては(からかい)でも、当時の私には、心をえぐる暴力でした。

あなたの顔を見て、癒えかけた傷が痛みました、と思ったが、奈津美は言えない。


距離をとってもらうのが精一杯だった。


そして、無言で斎藤由美を尾行する。

由美は油断しているため、全く尾行に気づかず、不倫相手のサーバーの会社の男性と落ち合った。

高級レストランのカップル席に通されたため、店員にお願いして後ろカップル席につく。


奈津美にとっては最悪だったが、心を石にして由美と不倫相手の会話に耳を済ます。


「俺が録音する」

進藤が録音を始めた。


「ねぇ、あの情報の続きよろしくね。」

「なかなかサーバーにアクセスするのは難しいんだぞ」

「わかってるって。さすがね」


・・・モロに情報漏えいの話だった。

それにしても、由美がハニートラップをしていたことに奈津美は驚いた。

美人は簡単でいいな、とも思う。同じ顔でも、自分はとてもしようとは思わないが。


その場でトイレに行き貫田に報告した。


トイレから帰ってきたら、進藤が会計を済ませていた。

「経費で落ちるので、レシート下さい」

奈津美は、絶対に進藤にだけはおごられたくなかった。


次の日の夕方、由美が情報漏えいで捕まったという社内ニュースが拡がっていた。


由美から依頼された浮気相手は、さっそく明朝にデータを盗みに来たのだ。

行成さんが、正式なルートでサーバーの会社に情報漏えいの疑いがあり、調査の依頼を日付指定ですることで現行犯を捕まえた。


由美の方も、監査部がこれからゆっくり聞き取りを行う。


これで今回のミッションを終了だ。


「山下さん、進藤くんありがとうね。斎藤由美の音声データの証拠ありがたいよ」

「行成さん、一ついいですか?」

「なんだい?」

「今回、私が調べた漏洩資料は、2種類あって、たぶん別の人物がもう一回引き出しています。

もしかして、二重スパイを入れていました?」

「・・・さすがだね、山下さん。

男の方は分かっていたんだけど、社内の女が尻尾を出さなくてね」


恐らく、由美の取引先とのやり取りは、メインをシステム技術部が行っていたため、由美の存在が社内で見えなかったのだ。

だけど、たまたまパーティで知り合って、部署について奈津美に話してしまった。

今回は奈津美の運が強かった。



「あと、これありがとうね」

中が全く見えない袋だが、大きさ的に、先日貸したBLの本だと分かった。

「お礼もつけているから楽しんでね」

行成さん最高。

たぶん、もう一冊薄い本を入れてくれている。


解決したのだから、一刻も早く進藤と離れ、BLの萌の世界に没頭したかった。


進藤を見ると、行成と奈津美の距離感に驚いて、グーを握っている。


進藤は奈津美に話しかける。

「山下さん、あのこれから社内で会ったら、」

「絶対に話しかけないで下さい」


一応1m以内のルールは律儀にずっと守ってくれている。


「あいさつくらいはしたら?」

貫田課長が七福神の笑顔で言う。


「1m以内に近づかなければ、あいさつだけはします」


進藤は、なんとも言えない顔をしていた。



それから、二週間、奈津美は何事もなく平和に過ごしていた。

斎藤由美とは、せっかく少し仲良くなれそうだったが、掃除のおばちゃん情報で社内の既婚者にも手を出していたことがわかった。

人種が違いすぎて、交わらないだろう、と思った。


そして。

「はい、総務部第三課山下です」

「本日、20時ミーティングの部屋を。」

「‥‥行成さんの真似やめてくれない?進藤くんでしょ」


「似てないか。」

「もう切ります」

「待て待て。仕事の話だ」

「はあ。勤務時間内でお願いします。」

「今から資料を持っていくから、帰るなよ」

「え‥」

もう就業時間の3分前だ。正直待ちたくない。

「いいか、後30秒だ」


すぐに来た。携帯電話でこちらに向かいながらダッシュで掛けていたらしい。息が切れている。


「山下、すぐに逃げるから、な。」

「進藤くんにが用事ないから。」


「これ、この間北海道に行ったお土産」

「はあ??」

袋を開けると、夕張メロンゼリーが入っていた。

それだけ渡すと、進藤はすぐに帰っていった。

今日は職場の若手達と飲み会らしい。


奈津美ははてなマークになったが、ゼリーに罪はないので食べることにした。

少し甘かった。


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