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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
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こちら、裏総務部 秘密処理課 10(前編)

「何これ・・」


秘書課の若い女性社員が牧田に人がいないところで話したいという。

しかも、急ぎで。

そして、お昼休みが終わり、人がいなくなったトイレでスマホを見せられ、思わず呟く。


「誰よ・・。」

なんと、社内の女子トイレの盗撮が、インターネットにアップされていた。

それも、牧田の。

顔や大事なところはさすがに見えないが、足を下から写したアングルにより、見る人が見れば分かる。


「これ、絶対に牧田さんですよね・・」

写真がアップされているのは、非公式の会社の掲示板だった。


-この女、足最高じゃん

-こいつ、男喰いだぞ。新入社員がほとんど喰われる。


この写真に下世話なコメントが書き込まれている。


「あ、あの牧田さん、大丈夫ですか・・?」

「ありがとう。心配してくれて、大丈夫よ」

「牧田さん?本当に大丈夫ですか?・・・スマホケース」

「あ」


牧田の少し長めのネイルが、女子社員の革のスマホケースに食い込んでいた。


「盗撮した奴、警察につきだす前に縛り上げるわ!」

グーを握り宣言したところ、


「盗撮ですって?」

一人の掃除のおばちゃんが話しかけてきた。


「ちょっと、それ、ここのトイレのこと?本当なの?」

おばちゃん、牧田の方をつかむ。力が強い。


「え、ええ」

「写真見せて」


写真を見るやいなや、牧田の手を両手で握り、


「許せないわ!トイレは女性の聖域よ!トイレ掃除のおばちゃんは、ここの主みたいなもんよ!

あなた、縛り上げるっていったわね?私も協力するわ!」


「は、はあ」

ちょっとびっくりした牧田だった。



早速掃除のおばちゃん、「照代さん」と作戦会議をする。


分かっているのは、社内の女子トイレに簡単に入れることのみ。

写真からサニタリーボックスに仕掛けているのは間違えない。


照代が、会社のトイレ中のサニタリーボックスを全点検してくれることになった。

その間、牧田は防犯カメラをトイレに仕掛けることにした。

犯人が、女性が男性か分からず、警備員の可能性も無ではないため、自前で仕掛ける。


さっそくサポートしてくれそうな人に電話する。


『はい、こちら総務第三課です』

「奈津美さん、ご無沙汰してます!私牧田だけど」

『・・・ご無沙汰しています。』

ちょっと嫌そうな奈津美の声が聞こえるが、そこはスルーする。


「貸して欲しいものがあるの、明日の朝そちらに行ってもいいかしら?」

『すみません、私、明日から数日席を空けるので、直接はお渡しできないです。メールで送ってくれたら準備しときますよ』

「ありがとう、よろしくね」


メールに防犯用隠しカメラが必要な経緯を説明し、貸し出しを依頼する。

裏総務の盗撮用カメラは、さすがに高性能のものが複数あった。

(まあ、奈津美さんのことだから、全部は見せてくれないだろうけど)


次の日から、さっそくカメラの撮影が始まった。


時間がないため、牧田と照代は、毎日個室を予約し、ランチを食べながら防犯カメラに写った不振人物がいないかチェックする。

なかなか見つからず、すでに10日間は過ぎてしまった。

その間、牧田のコンビニランチを見かねた照代が、牧田の分の弁当も作ってくるようになった。


「美香ちゃん、女の子は痩せてたらだめよ。息子の分も作るから、ついでにね」


牧田は、30歳過ぎていて、女の子でもないし、痩せてもいないが、おばちゃんからしたら心配らしい。


そして、照代の弁当は絶品だった。


今日は、ピーマンの肉詰めがメインだったが、ぷっくりしたピーマンに下味のついた肉がギュウギュウ詰められ、その上から和風のあんがたっぷりかかっている。

卵焼きも、出汁ベースの甘めながら、明太子が中に入っていて、バランスがいい。

カレー味に炒めたちくわも、家庭の味だった。

ご飯には、じゃこのふりかけが混ぜられている。


牧田は、毎日作ってもらうのが申し訳ないため、スイーツを用意することにした。

高級スーパーの話題のスイーツや、秘書課ならではのお取り寄せなど、他人のために準備するのも中々楽しい。


「トイレには、今のところ不振なカメラはなかったわよ」

「そうですよね。私が動いているのを、知ってるのかしら?」

「美香ちゃん、何か恨みをかうようなことしたことある?」


(恨み・・・)

この10日間、ずっと考えていたが、


「正直、恨みをかいすぎてわかりません」

「えーー!」


仕事上も、男女関係も、そつなくなってきたつもりでも恨みは知らないうちにかうことがある。


「美香ちゃん美人だからね、勝手に振られたって思う人もいるかもね・・」

「・・・そのパターンも、経験したことありますね」

困った、という風に、ほほに手を当てる牧田。


「こんな美人が社内にいたの知らなかったわよ、本当にモデルになろうと思わなかったの?」

「やめてくださいよ照代さん、恥ずかしい。

私は性格に難があるから、行きおくれてますんで」

あまり年上女性に誉められることはないため、いつもの「ふふ、もっと言って」などの対応ができず、牧田は素直に照れる。


「まあ、独身だったの!うちの息子どう?って言いたいけど、さすがにあなたのような美人はもっと上を狙って欲しいわ。」

「ふふ、玉の輿、早く乗たいな」

「美香ちゃん頑張れ!」


牧田と照代は、何だかんだ1ヶ月ビデオを見て仲良くなっていた。


そのうちに、


「息子がね、防犯カメラに不審者チェック機能をつけたから、見なくてよくなったわよ」

「え?そんなこと出来るんですか?」

「動画をアプリに読み込んで、2週間分のいつもそのトイレを使う人のデータを歩き方の認証で記憶させたんだって。

そして、それ以外の人だけがリストアップされるようにしたみたい。

目が疲れたって言ったら、作ってくれたのよ~」


「・・・息子さん、何者ですか?」

「昔からゲームとかパソコンだけは、得意なのよ~」

(普通にそれ、凄いレベルだよ・・)



夜、牧田はホテルに男といた。

外資系会社の役員と月に1回くらい会っている。


若いときから気心が知れ、お互い性格が似ているため会話があう。

さらに、夜の相性がよく、男が結婚後も食事とホテルの会合を続けていた。


深い愛情はないが、女性にだって性欲がある。程よく解消してくれている、お互いに都合のいい相手だ。


スポーツ感覚の交わりが一回終わった後、眠くならないため、シーツにくるまり会話をする。


「ネットで写真をさらされた?」

「本当に許せない。これよ」

「お前の足が綺麗に撮れてるじゃないか」

「もう、触らないでよ!それにしても、これやってくれた奴、八つ裂きにしたいわ」

「・・お前は精神的に追い詰めそうだよな」

「当たり前でしょ!」

「こういうのは、大抵女だよ」


「女?」

「そう、おとなしい、小心者の女だ」

「なんで分かるの?」

「女を恨むのは女って決まってるんだよ」

「なるほど、経験者は違うわね」


牧田は考える、おとなしい、自分を恨んでいる女・・・分からない。



次の日、照代の弁当はのり弁だった。

のりと醤油と鰹節がお互いの香りを高め、白米をさらに食べたくさせる。白身のフライは手作りでふっくらしていた。

きんぴらごぼうが、さらに食欲を促進する。


「照代さん、お弁当代」

「いいのよ!美香ちゃん、食べてる時は写真のこと忘れてるみたいだから、作り甲斐があるわ。

私もお弁当作るの楽しいわ~」

幸せそうに照代は言う。


牧田は家庭的な料理から遠ざかっていたため、舌にひどく馴染んだ。

そして、励ましの言葉は、味以上に言葉が心に染みた。


牧田は決意する。


「照代さん、このままだと犯人が尻尾ださないから、こちらから仕掛けましょう」


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