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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
24/42

こちら、裏総務部 秘密処理課 9(後編)

2階建ての木造アパートに進藤は来ている。


(まあ、家庭教師は生徒を経験したことあるけどな。)


本日は、奈津美と静香が出勤中の18時から20時に数学と英語を教えることになっていた。

進藤は、静香とラウンジで客として挨拶し、元予備校講師という肩書きで売り込んだ。

家庭教師の初日は静香も半分同席したが、何度もラウンジに来ていたこともあり、その後は静香のいない日に進藤一人で家に訪問できた。


家は、整理整頓されていた。

夢香は、勉強が苦手な少しやんちゃよりの女の子だった。


「お兄さんかっこいいね!いくつ?」

「26って、さっきから一問しか進んでねーじゃん」

「彼女いるの?」

「ほら、手を動かして~」

「で?彼女は?」


集中力が全くないため、少し話しに付き合って、仲良くなる方がいいかもしれないと進藤は思う。


「彼女はいないよ」

「じゃ、募集中?」

「いいや」

「じゃ、いい感じの子いるんだ!」

「・・・いい感じじゃ・・ないね」

「へー!好きな人だ!」

「す、好きな人とかそんなんじゃ」

「あーあ、ちょっと動揺してる~」

「ほら、ここまで解いたら、またおしゃべり付き合うから」


進藤は、静香に問題集を解かせる。

その間に部屋を黙視でチェックし、手帳がありそうな場所を見つける。

夢香がトイレに行く間に、少しずつ詮索するが、時間が足らない、と思った。


そしてもう一つ、ミッションがあった。

黒革の手帳のデータが電子データ化されていないか確認したかった。


学習ソフトを無料提供すると申し出、家に一台だけあるパソコンにアプリをダウンロードする。


野口が、元々作っていたパソコンの全データ覗き見アプリに、急ぎで高校受験用の英語学習機能を偽装し、堂々とダウンロードできるようにした。

進藤は、夢香から承諾を得て、野口からレクチャーを受けたようにパソコンにアプリを取り込み起動する。

これで、このパソコンのデータ、及び、もしスマホをパソコンに繋いだら、そのスマホのデータもウイルスで丸わかりだ。


進藤は野口には、闇落ちして欲しくないと思った。


とにかく、電子データは遠隔操作する野口に任せるとして、進藤は夢香と仲良くしつつ、勉強を進める。


1週間に1度、4回目になると、かなり仲良くなってきた。


「夢香ちゃんさ、お母さんが夜に仕事で寂しくないの?」

「うーん、別にいいかな。だって、一緒に暮らすようになったの、去年からだもん」


行成からの報告では、元々は父方の祖母と暮らしていたが、祖母が亡くなり急に母親に引き取られた。

父親は違う女とすでに家庭を持っていて、夢香を引き取るつもりはない。

夢香が言うには、母親とも幼いころに分かれたきりで面識は薄く、今もあまり会話が続かない。

本当は、高校に行かずに働いて家を出たいと思っている。


進藤は、自分も同じくらいの年頃で、母親の死と共に父親に引き取られたため、自分の経験と重なった。

そのことを夢香に告げると、びっくりしていた。


「お兄さんは、よくやってけるね。

わたしは高校行きたくないよ。早く家出たい」

「うーん、今も父とは全然仲良くないよ。継母もいて、そっちとはもっと仲良くないし。

高校は、勉強ついていくの大変で、辛かったしな」

「へー」

「夢香ちゃんは、さ。頭良いと思うから、もったいないよ」

「もったいない?」

「そう。社会に出たら、勉強そのもので評価される訳じゃない。人柄とか、いろんなもので評価される。

夢香ちゃんは、挨拶ができて、きちんと人と話せて、評価されるべき人だと思う。お祖母さんに愛情を持って育てられたんだよね。

ただ、日本って、評価がマイナス加点方式なんだよね。

他の人がみんな持ってて一人だけ持っていないものがあると、どんなに秀でているものがあっても、普通の人にすらしてもらえない。」

「なんか、わかるかも。」

「どんなに個性が大事って言っても、今の日本だと、よっぽど人の役に立つ物凄い才能がない限りは、わずかな才能にかけるより、マイナス評価を減らす方が遥かに楽だよ。

他人を変えることも難しい。

だからこそ、これからの人生で、正当な評価を受けるために高校までは卒業してた方がいい」


夢香は真剣に話を聞いていた。


「わたし、頭良いとか言われたことないから、嬉しい」

「君のお母さんが、公立なら通えるって言ってたよ」

「まだ、間に合うかな?」

「精一杯頑張ってみようぜ!」


それから、進藤の猛特訓が始まった。



「冬美ちゃん、明日誕生日でしょ?お客さんにちゃんと声かけた?」

茶髪の黒服スタッフが声をかけてくる。

「え?誕生日?」

「ホステスの誕生日は、派手に祝うもんだろ」

「はあ(経費で花賈って貰うか)」


奈津美は、偽りだらけの履歴書に、誕生日だけは本当のことを書いたのを思い出した。



「お誕生日おめでとう!」

行成、貫田、進藤が大きな花束を持ってきた。


「ありがとうございます!こんな大きな花、すみません」

花束は、百合を中心に、8000円以上する大きさだった。

花束は経費で落ちると聞いていたので、安心する。


ちなみに、貫田とは久しぶりだ。ホステス姿を見て、「様になってきたんじゃない?」と関心していた。


今日は、行成の提案でいつものドレスよりも少しゴージャスな紫のマーメイドスカート、髪型も多めに巻いている。

慣れた手付きで全員分のハイボールを作る。


「シャンパンって、経費でいけます?」

「一番リーズナブルのならね」

コソコソと行成と奈津美が話している。


静香もテーブルに華を沿えるために来てくれた。

記念写真をみんなで撮る。


進藤から、花束だけでなく、ネックレスのプレゼントを貰う。

安くはない小粒なダイヤの一粒の細いチェーンで、使いやすそうなものだ。

(ここまで経費で落としてくれなくても・・・)


進藤が隣に座り、話しかけてくる。

「今日って、本当に誕生日なのか?」

「間違えて、本当の誕生日書いちゃったんだよね。

こんな場所で誕生日迎えること、もうないと思うから、いい経験だよ」

(いつもは、誕生日はお母さんの電話のあと、一人でデパ地下惣菜とビールだったからね)

「そっか、良かった」

「?」



そして、行成と進藤は打ち合わせし、ゆっくり家捜しすることにした。

進藤が夢香を外に連れ出して、その間に行成がゆっくり家捜しする。


奈津美にも、静香が出勤することを確認している。


進藤は、気分転換にファミレスで勉強を提案すると、夢香は喜んで家の外に出た。

鍵は夢香からこっそり借りて、開けておいた。


行成は、ほどなく引き出しから手帳を見つけた。

茶色の手帳だった。

手帳を一週間拝借し、中身をフェイクに入れ換えることにした。


野口から、パソコンに茶色の手帳の写真データがあったこと、1度だけUSBにデータが抜かれていたことが報告された。

パソコンのデータは、野口が遠隔操作ですでに消去した。

問題はUSBだ。部屋になかった。


すぐに奈津美にも情報共有され、静香のバッグを見たが、そんなものはない。



夢香は、やれば出来る子だった。自分一人では出来なくても、見守りがあれば一人で宿題をこなせる。

進藤の猛特訓についてきて、グングン理解が広がっている。

数学と英語、社会はなんとか合格レベルにいけそうだ。


「進藤先生さ、その後好きな人とはどうなの?」

ファミレスで問題集を解きながら夢香は聞く。


「また手が止まってる」

「ちょっと休憩・・・で?」

「でって?何もないよ。夢香ちゃんこそどうなんだ?誰かいるんじゃないの」

「ふふ、ちょっと見て」


筆箱の中から、消ゴムを取り出す。

「消ゴムに好きな人の名前を書いて使いきると、両思いになれるらしいよ」

「そんな大きい消ゴムじゃだめじゃん」

大きな消ゴムに、小さい字で名前が書いていた。


(それよりも・・・筆箱の中に・・・)


「ちょっと筆箱見せて」

強引に筆箱を奪うと、筆箱の中に白いUSBがあった。

「これ、なんのUSB?」


すると、夢香の雰囲気が変わり、冷ややかになった。


「お兄さんも、そのUSB狙ってたの?」

「え?」

夢香は進藤を睨む。


「お母さんが、そのUSBいろんな人が狙ってるって言ってた。

たまに、変な人が家に入ってくるんだよね。」


(なるほど、すでに狙われていたか。でも、娘が知ってるって)


「お兄さんもだとは思わなかった。騙したんだね」


進藤は居たたまれなくなった。騙した。間違えない。

だが、進藤は、そのUSBに頼り、人を脅したお金で夢香に欲しくないと思っている。


「夢香ちゃんは、何を知っているの?」


「・・・・お母さんは、このUSBで男の人を脅して、お金を貰ってる」

「そう、知ってたんだ。俺は・・・脅すのをやめて欲しいと思っている。

そんなお金で幸せにはなれない。

そんなことしてたら、いつかやり返されるよ」

「・・・わかってる。お母さんもいつか殺られるかもって、怖がっている」

「だったら・・」

「ねえ、進藤先生、取引しない?」


夢香の取引内容は、健全だった。


受験が終わるまで、無料で家庭教師を続けること、お母さんに昼の正社員の仕事を紹介すること、だった。


「どうして正社員?」

「お母さんは、私を高校に入れるためにお仕事頑張ってる。

ハローワークに何回も行ってるの知ってるの。」


静香は、昼の仕事にずっと着きたがっていたが、なかなか就職が決まらなかったため、嫌気がさしていた。

そんなときに、客の一人から手帳を手に入れ、脅すようになったのたっだ。

それなら、昼に良い仕事があればいい。


進藤は貫田と行成に相談した。

鶴安商事の子会社に一人雇用を増やすくらい簡単にできるだろう。


そして、進藤から夢香への条件は、USBの受け渡しと静香への説得、勉強をきちんと続けることだった。


夢香は、最後の条件に少しむず痒く、嬉しくなった。


交渉は成立した。

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