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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
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こちら、裏総務部 秘密処理課 2

奈津美は、小学校5年生までは、いじめられていなかった。

しかし、突然ある日を境に男子グループからいじめを受けるようになった。

歯科矯正をしていたり、運動神経が鈍かったりしたのをからかわれたり。

当時から漫画を書いていたのを取り上げられて、笑われたり。

女子はいじめには参加しなかったが、止めてもくれなかった。

中学に入ると、いじめによって内向的な性格になっていた奈津美は、スクールカーストの一番最下層になった。今度は汗かきなのをからかわれた。


そんないじめの主犯だったのが、進藤竜二だった。

彼はいわゆる、スクールカーストの最上位、運動神経がよくて、面白くてかっこよくて、クラスの半分の女子が好きと答える男の子だった。


奈津美と竜二は、小学校一年生から中学校三年生までずっと同じクラスだった。


奈津美は、進藤や男子が嫌すぎて、女子高に進学し、地方から東京の大企業に就職した。

もう、一生地元の人とは会う気はなかった・・・のに。


一番会いたくない男が、同じ会社にいる。

正直、それだけで退職したくなった。


絶対にこの大きな社内で会うわけがないし、彼とは生きる世界が違うから、気づかれるはずがないと、なんとか気持ちを持ち直し、出社している。


正直、一般オフィスに行くのが気が重い・・。

でも、情報漏えいの調査のために、いくしかない。


奈津美は今日はシステム技術課に潜入することにした。


行成の情報だと、システム技術課以外からは漏れないはずの情報のようだ。

システム技術課は、秘密情報を守るため、社内のネットワークからも独立した独自のネットワークを持つ。監査部や人事部すらも部屋の中には入れないセキュリティがちがちの部署だ。


そこで奈津美は、植物業者を装って入室することにした。

前日に、システム技術課の総務に「植物の植木鉢をお届けします」と一報電話した。


そして、業者を装い、台車で部屋にいくと、担当者が、あっさりと部屋に入れてくれた。


「メンテナンスをするので、ちょっと部屋をお借りしていいですか?」

「こちらどうぞ」

小部屋に通され、ドアを閉めてもらった。

あらかじめ、床下を独立したネットワークケーブルが這っていて、小部屋の下を通っていることを調べている。床をはいで、緑のケーブルを引っ張り出し、持ち込んだPCに繋ぐと、システム技術課だけのネットワークに接続できた。


行成から取ってきて欲しいと指示されたフォルダをUSBに写す。20分ほどで写し終わり、再び業者に成り済まして去っていった。


しかし、なんと、漏洩した情報は、システム技術課からのアクセスではないことが判明した。


その日の夕方、行成とその部下が総務部第三課まで来て、貫田課長と作戦会議をした。


「・・・さっぱり情報の出処がわかりません。

貫田課長、何かありませんか?」

「うーん、ちなみに、その漏洩した情報って高いの?」

「顧客情報の一部ですので・・・500万円くらいでしょうか」

行成の部下が答える。

奈津美は、3人ぶんのお茶を入れ、自分のデスクに戻る。

部屋が狭いため、話し合いは聞こえる。


「山下さんにお願いがあります。」

突然、行成が奈津美に話しかける。


「今日、社内の若手社員の研修の慰労会があるので、参加して頂けませんか?」

貫田課長が奈津美をじっとみる。

貫田も行成も奈津美が社内の飲み会を嫌っているのを知っているため、本人の意思を一応確認している。


・・・嫌だけど、手がないなら、仕方ないか。


「分かりました。詳細をメールで送ってください。」

ため息をつき、覚悟を決める。

奈津美は、任務に集中することと、もうひとつ、奴に合わないことを考えていた。


飲み会は50人くらいの立食パーティだった。

本当に華やかな場所が苦手な奈津美は、まずは誰か話し相手をみつけないといけない。


「こんにちは、あなたは、どこの方ですか?」

「総務部の、山下といいます。あなたは?」

「第二営業部の斎藤です。」

突然、そこそこの美人に話しかけられてびっくりした。

斎藤由美は、法人向けの営業部で奈津美の同期だった。パーティが苦手、と言っていて親近感がわく。

「あなたは、この会社って男社会で嫌だと思ったことない?私、同期の男性ばっかりいい仕事がもらえて、羨ましくて」

・・・・奈津美には分からないが、不服らしい。

「斎藤さん」

「由美、でいいですよ、奈津美さん。同期でしょ」

「じゃあ、由美さんって、法人のお仕事なら、大口でしょ。かっこいいですね」

「私は、システム関係の部署の自分がメインじゃないのよ。システム技術部と、サーバーの会社の橋渡しをするのよ」

「サーバーって社内にあるんじゃないですか?」

「あら、バックアップは社外にあるのよ。これは秘密だけどね」

「システム技術課の人って、難しそうですよね」

完全に奈津美の勝手なイメージ。

「あいつら、本当に嫌いよ。美味しい仕事だけとって、メールの文章は長いし、小うるさいのよね」

「わかる!」


同期のよしみで、はじめてなのに、奈津美に気軽に話してしまう。

奈津美も、珍しく女友達が出来たようで楽しかった。

(サーバー、ね。いい情報かも)


そして、遠くから、きゃーっと黄色い悲鳴が聞こえた。

振り向くと、女子の固まりが出来ていた。


なんだろう・・?


そこには、進藤竜二がいた。

奈津美は固まる。

絶対に見つかりたくない。

少しでも動けば見つかる気がして、頭を向けて動かないようにする。


「進藤さんって、一途!」

「結婚するのは初恋の人がいいんですって!」


お願いだから、同姓同名の別人であってほしい。

このまま、騒いでるのを煙幕にして、一刻も早く立ち去ろうと思い、

「由美さん、ごめん今日はありがとう、また社内で会ったらよろしくね」


そう言って、足早に会場を去り、トイレに行く。

そして、トイレから出た狭い廊下で、ばったり進藤竜二ウィズ取り巻きと出くわす。


竜二と奈津美はばっちり目が合う。

奈津美は息が止まった。


竜二は奈津美を見て、大きく目を見開く。


(そうだ、向こうは私の名前を知らない)


「山下・・?」

「っ人違いです」

地面を見て、さっさとすれ違い、通り抜ける。


「待て」

手首を捕まれる。


思いっきり手を振りきり、顔を出来るだけそらして、走って去った。

(これじゃ、山下奈津美です、と言ってるようなもの。最悪だ)


その日は、奈津美はあまり眠ることが出来なかった。


そして、次の日、奈津美には、もっと最悪なことが起こる。


「監査部に配属になった進藤竜二くんだ。

情報漏えいの件で、私のところの人事部から応援に来てくれた。

しばらくは山下さんの相方になるからよろしく。」


行成さんと進藤竜二が、総務第三課にあいさつに来た。


進藤は、ニイッと笑って一礼した。

「山下さん、よろしく」


(ああ、また私、いじめられるんだ)

奈津美は、心の中で、つーっと一筋、涙を流した。

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