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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
19/42

こちら、裏総務部 秘密処理課 8ー6

三課の部屋は、課長の席が一番奥にある。

その裏に、倉庫があった。倉庫へは課長の席の後の扉から入る。


倉庫は薄暗く、昔の物が放置され雑然としている。

一度、年末に奈津美が大掃除を申し出たが、貫田が放置するように言ったため、手をつけていない。


倉庫の中に社史や電子データ以前の社内報が残っているため、たまに漁ることがある。


奈津美と進藤は、その部屋で創業当時の資料をひっくり返し、『モントレ・アテーヨ』なる人物を探していた。


ここ2日間、ずっとこの作業だ。

カビ臭い資料をめくるが、そのような人物が全く見当たらない。


「一旦休憩しよう」

奈津美は進藤に声をかける。


誰もいない部屋。進藤と二人きり。

少し前なら、もっと嫌だった。


しかし、ここ数日の奈津美は、水野と話してから少し変わっていた。

過去の自分の頑張りを認められることで、冷静になれた。

(進藤くんだって、変わったんだ。)


奈津美は、自分が変わるためには、進藤との関係が鍵になると、理屈でなく本能で感じている。


「進藤くん、この間のことだけど・・・」

「!待て、先に」

進藤は、奈津美の声をさえぎって、土下座をして、勢いよく床に頭をすりつけた。


「ほんっとうに、ごめん、山下があんなになるなんて。

山下の気持ちを考えずにズケズケ言って悪かった。

あそこまで、俺自分が嫌われてるって思ってなかったんだ。

でも、1m以内に近寄らないでほしいって、本気だったと分かって、今は軽はずみに話しかけたこと後悔してる」

進藤は、手をキツくにぎり、声が震えている。


「思い出したくないこと、思い出させた。俺のせいで、本当にごめん。もう、仕事以外では近づかないから」

さらに頭をすりつける。

(こんなの、社長に見られたら私が首だよ)


「・・・ふう」

一息ついて、奈津美は声をかける。


「私こそ、急に帰ってごめんね。メッセージも無視しちゃったし」

メッセージの無視など、普段の奈津美ではありえないが、やってしまった。


「頭をあげてくれる?」


進藤が恐る恐る頭を挙げるのを待って、奈津美は話し始める。


「小学校中学校の時・・・。

確かに、凄くあのときは嫌だったよ。途中まで仲良くしてくれてたのに、急に意地悪になって、本当に嫌だった

許してほしいって言われても、今は許せるか分からない、かな」


許す、と言う感情は難しい。

思ってなれるものではないのだ。

経験や気持ちを含めた、「これなら許せる」という納得が伴わなければならない。


「でも、進藤君が昔と変わったのは、この数ヵ月で分かったよ」


そうなのだ。進藤は、会社で再会してから、昔のように嫌なことは言わない。

奈津美は、最初は警戒していたが、あまりに紳士的なため、油断していることに気づいた。

最初は、1m以内に入ったら嫌だったが、ここ数ヵ月一緒に仕事をして、少しは安全と感じたのか、入ってきても、昔ほど嫌ではなくなった。


「進藤君がせっかく大人になってるのに、私がいつまでも子供のままだと、嫌だなとも思った。

1mなんて、失礼なこと言ったって、ちょっと今は反省してるよ。

だから、許す緩さなは置いといて」


「意地悪になる前の進藤くんなら、また仲良くしたいと思ったよ。」

そう。奈津美は意地悪になる前の進藤も知っている。

とにかく明るくて、太陽のような元気な男の子だった。それは、変わっていないと思う。

そして、実はただ明るいだけでなく、ミステリー小説好きの、ちょっと内向的な意外な部分があるのも知っている。


「何年かかるか分からないけど、俺、山下が許してくれるようにする」

若干涙ぐんで進藤は言う。


「もう、スーツ汚れてるよ、立って」

奈津美の言葉で、進藤が勢いよく立ち上がった瞬間、壁に掛かっていた絵画の角で頭を打つ。


「いって~」

絵画の額は大層立派で、重そうだった。

角が尖っていて痛そうだ。

絵画が斜めにずれたので、一度取って再びつけようとすると、


「「あーー!」」

二人で大声をあげる。

なんと、絵画の裏に、金庫の番号を入れるところがあった。


進藤は痛いのを忘れた。


「絵のタイトルが、雪原の鶴、だって」

雪の中に鶴がいる。

どう見ても冬だ。


「え?はじまりの場所の足元って、まさかここ?」


急いで執務室に戻って、本社ビルの敷地内の設計図を確認する。

確かに、あの石像の下あたりがこの部屋になりそうだ。


貫田も呼んで、3人で金庫を見る。


「数字入れないといけないみたいだね」

「普通のダイアルだよね?」

創業年月日や、初代社長・家族の誕生日をダイアルしてむるが鍵が開かない。


電子の暗証番号だけだとすぐにロックがかかるが、昔作られたのが幸いして何度入れても大丈夫だ。

少し安心感があった。


「進藤くん、数字ない?進藤くんの家のことだよ」

奈津美は急かす。


「そんな言われても・・ああ、時間は?」

「時間?」

「猿の置時計の時間」

「ああ、ちょっと待ってて」


執務室から写真を持ってきて、時計を見る。

別荘、本邸の家族写真の中と、ひまわりの塔にあった現物の写真があるが、3つとも時間が違った。


「えっと、1640、1035、1120」


時間を4桁にして、順番に入れると、カチッという手応えとともに、金庫が開いた。


「開いた」

キィとやや高いおとを立てて開く。

すると、金庫には奥行きがなく、壁があった。


「なにこれ」


壁をさわると、緑の柔らかいウレタン素材のように少し凹む。


3人で指を沈めてみるが、なにもない。


「どういうことだ?」


奈津美は考える。

まだ使っていない暗号はないか?


夏に鍵がある。

鍵はなかったではないか。


モントレ・アテーヨってなんだろう。


写真の違和感・・。


(まさか・・・ね)


奈津美は写真を見る、そして進藤の耳を見て。


「え?なんだよ」

「ごめん、ちょっと見せて」

進藤の耳を触る。


「ちょっと」

進藤が照れているが、それどころではない。


「進藤くん、耳をこの緑色のところに押し付けてみて」

「「は?」」

貫田と進藤はぽかーんとするが、奈津美は押し付ける。


進藤は右耳をギューッと押し付けると、突然ガツン、という音が床からした。


「え?」


「床が開いた」


気づかなかったが、床に四角い板があり、そこがせり上がっている。


板をはずすと、さらに地下に続く階段があった。


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