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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
15/42

こちら、裏総務部 秘密処理課 8ー2

朝、新宿駅に集合し、レンタカーに乗り込む。

進藤は水色のチェックのシャツとデニム、奈津美もピンクのカーデガンとベージュのチノパンという動きやすい格好だ。


「三枝さん、お世話になります」

「こちらこそ、奈津美さんと一緒なんて、嬉しいですぞ」

笑顔でピースをする。相変わらず好き放題やっていそうだった。


レンタカーでは、進藤が運転、助手席に三枝、後部座席に奈津美が座る。

進藤は運転が好きらしく、三枝は久しぶりの遠出で、二人とも目に見えてウキウキしている。


「じい、おれ淺井屋のパン食べたいな」

「まかせて下され、明日のモーニングを予約しておりますぞ」

「おー!さすがじい!」

「お坊っちゃまと軽井沢なんて、何年ぶりか、じいは、また来れて本当に嬉しい。

しかもお嬢さんと一緒だなんて、感涙です。

夢で何度見たか。」

助手席から後部座席に振り向き、缶コーヒーをくれる。

「あ、ありがとうございます。」

涙ぐんでいる三枝に若干引く奈津美だった。


(・・・お嬢さんって、彼女じゃないし。

業務って知ってるじゃん。)


関越のサービスエリアで軽く昼御飯を食べると、軽井沢まではすぐだった。


別荘に行く前に、スーパーに寄り食料を調達する。

奈津美は軽井沢が初めてで、何もかもが珍しかった。

まず、ジャムの種類が多いこと、地元食材が豊富なことに驚く。

楽しくなって、ついつい自分のジャムを買いすぎてしまった。後で、こんなに食べれるのか、少し心配になる。

三枝が言うには、軽井沢初心者のOLが必ず通る道らしい。


そして、進藤家の別荘に行く。

別荘は、意外と郊外にあり、うっそうとした森の中に佇んでいた。

パッと見、そんなに大きくないし、見た目も地味だった。

軽井沢には、別荘を作る際、自然と景観を守るために厳格な建築ルールが存在する。

土地の広さに対して、家の敷地面積の割合が大きくなりすぎないように規制されている。

つまり、パッと見家がこじんまり見えるのだ。

また、土地の中ならどこでも建てることはできず、一定以上道から離れた場所にする必要がある。この他、細かいルールがたくさんある。


もちろん、一般庶民には、一生縁のないルール。

家も、パッと見こじんまり見えるだけで、実際は自分のマンションの部屋の何倍も広い。


管理会社の人が手入れをしているお陰で、入っても全くほこりやかび臭さはなく、快適だった。


「こっちは山下の部屋な」

ゲストルームに通され、少しだけ荷物を整理したあと、リビングで紅茶とクッキーで一服する。


その後、早速手分けをして部屋を調査を開始した。


家具の引き出しの中、絵の裏、本に何か挟まっていないか、庭の木等、目を凝らして色々見ると、全部怪しく感じてしまう。


その中でも、春夏秋冬に関わりそうなのは、「桃の間」と描かれた和室だった。


他の部屋には名前がないのに、ここだけ名前がついている。

部屋の中は、掛け軸や襖にから「桃太郎」がコンセプトとなっていることがはっきりわかった。


襖は4枚あり、ストーリーに沿って4枚の絵が全部違う。

1 桃が川から流れてきて、ぱっかり割れ生まれる

2 おじいさんとおばあさんが桃太郎に吉備団子を渡す

3 桃太郎と犬ときじが出会う

4 桃太郎が船で鬼ヶ島に向かう


さらに、掛け軸には、桃太郎が鬼退治する場面が描いてあり、部屋全体で、ひとつのストーリーになっている。


「・・・何か足りなくない?」

「おれも、少し引っ掛かってる」


念のため、桃太郎のストーリーをスマートフォンで見てみる。

記憶に自信がない。


「・・・猿だな」

「猿が足りないね」


この部屋には、猿がどこにもいない。

たまたまかもしれないが、逆に怪しい。

もう一度、桃の間の調度品から猿を見つけたが、どこにもいなかった。


別荘の中に、他に猿がいないか、もう一度全部くまなく見たが、猿の置物等はなく、再び行き詰まってしまった。

すでに19時を過ぎ外は暗いため、今日はもう終わりにし、夕食に外に出た。


夕食は、三枝が予約したジビエのフレンチ料理だった。

三枝は、二人と一緒の席で食べることを遠慮した。しかし、奈津美の希望により一緒に食事をした。

そこでの話題は、進藤の家族についてだった。


「進藤くんて、兄弟いるの?」

「ああ、兄が一人いるよ」

「お兄さんが跡取りってこと?」

「うーん、最初はそうだったみたいだけど、途中から俺になったんだ」

「小学校の時は、一緒に暮らしてないよね」

「ああ、子供の時は、本当のお母さんと二人で暮らしていたからな」


中学1年までは、一緒の学校だった。

進藤が母子家庭だったことは知っている。


「お母さんが死んで、急に会ったこともない父親に引き取られたんだ。」

それが今の社長。

「だけど、中学2年と3年の二年だけだぞ、一緒に本邸で暮らしたのは。高校から海外の寮だから。

あんまり家が好きじゃなかった」

継母の器量にもよるが、父親もあまり知らないと、さぞ居心地の悪い家だっただろう。


「そのときは、もう兄は跡取りから外されて、俺が海外留学することが決まっていたからな。

家の中がぎくしゃくしていて。

あの二年間で、急いで社長業と英語を詰め込まれて、家族団欒どころじゃなかったな」

一流の会社の跡取り帝王学は、それなりに早い時期から始めるらしい。


だが、奈津美は進藤の生い立ちに、頭がごっちゃになっている。

小学校の時から進藤、という名前だった。進藤の母親と社長は、結婚はしていたはず。

だけど、兄がいるということは、今の義母はいつ兄を生んだ?妾だったのか?

いや、跡取り教育は、最初は兄が正式に受けていたはずだから、おかしい。

もっと突っ込みたかったが、進藤にとっては、辛い記憶のはずだから、進藤が口を開かない限りはやめておこう。


「ごめんね、ずけずけ聞いてしまって」

「ま、みんな気になるんだろうな」

苦笑いしている。

今まで、生い立ちについては、何度も聞かれては説明していたのだろう。


「そんなことより、山下、謎解き好きだろ?」

「え?うん、あ!進藤くんもミステリー昔好きだったよね」


奈津美は、小学校の時、図書室のミステリーの本を進藤と競うように借りていたのを思い出した。

今はどうか分からないが、昔は本に小さな貸し出しカードが付属されていて、小さい字でクラスと名前、貸出日を記入していた。その本を誰がかりたのか、貸し出し履歴が一目瞭然だった。

つまり、借りたい本が他の人に借りられてしまっていた時、次に借りたら誰が借りていたが分かるのだ。

そのとき、借りる本が良くかぶってしまっていたのが、

進藤と奈津美だったので、お互い認識していた。


「実は、この調査の話が出たとき、山下の顔が浮かんだんだよ。こういうの好きじゃないかって」

「えー!私は自分で解くより、安全に解けるのを見てたいよ」

「忍者の探偵の話好きだったじゃん。

だから、山下を推薦したんだよ」

「いやいや、自分のおうちの大切な財産なんだから、そんな遊び感覚じゃだめでしょ」

(そんな理由で指名したのか!社内にもっといただろ!)


夕食は、雰囲気が良くめちゃめちゃ美味しかった。

奈津美は、(せっかくだから好きな人と来たかったな、いないけど)と思った。


進藤家御用達の高級店だが、代金はいらないと言われ奈津美は困ってしまった。


次の日の朝、人気のパン屋でモーニングを食べた後、もう一度部屋を調査する。

もう見尽くしたつもりだが、見落としては困る。

3人で、とにかく猿をさがしまくった。


そして、玄関に良く検分していない写真を見つける。

初代の家族写真だった。


良く見ると、なにか違和感がある。

なんだろう・・?

奈津美は、違和感の正体が分からないが、写真の中に、猿の置物の時計があるのに気づいた。


「進藤くん、三枝さん、猿がありました!」

「マジか!」

「でかしましたぞ!奈津美さん」


写真をスマートフォンの写真で撮った。

もしかして、この家ではここまでなのかもしれない。

一度、東京に帰ることにして、軽井沢を後にした。


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