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こちら、裏総務部 秘密処理課  作者: 流山 直喜
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こちら、裏総務部 秘密処理課 1

山下奈津美は自分のデスクの電話をとった。


「はい、総務部第三課山下です」

『本日、10階東の蛍光灯が切れている」

「承知致しました。今から付け替えに参ります」

それだけ言って、電話を切る。


窓のないオフィスに机が二つ、奈津美と上司の机だけだ。


「課長、監査部からの依頼です。情報漏えいについて調査ですが、資料とってきます」」

電話では、全くそんなことを言っていない。


ここの部署への電話は、暗号が使われる。

本日=監査部からの依頼

蛍光灯=情報

切れている=裏切り者がいる

今から付け替えにいく=今から資料を取りにいきます


つまり、先程は監査部から、10階東に情報漏えいした社員がいるから調査してほしいという依頼だった。


ここは社員5000人が働く鶴安商事の、社内のあらゆる裏の事件に対し秘密裏に処理する、通称『裏の総務部』。

社員は2名。

貫田課長と山下奈津美の二人だった。


「わかった、そのままお昼行っていいよ」

まだ11時10分、監査部まで行ってもお昼には早いが、貫田課長はランチをゆっくりどうぞと言ってくれている。

貫田課長は、ふくよかな七福神のような中年で、温厚な優しい上司だ。


「ありがとうございます!」

奈津美は優しい課長に感謝し、大きく一礼して部屋を出る。

この部署は、会社の巨大ビルの地下3階駐車場の一角にあり、普通のエレベーターでは一般オフィスには行けないのだ。


そして、一般オフィスに入り、エレベーターに乗ると、先客の男性社員が茶封筒を渡す。

「よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


山下奈津美は、26歳、見た目は157cmの中肉中背、顔はよく見たら美人だが印象が薄い、性格は人見知りで内向的な性格、いたって普通のOLだ。


入社2年目に、人事部部長(役員)に直接呼び出され、『君は圧倒的にスパイに向いている、日陰の部署でやってみないか?』と言われた。


奈津美は、もともとキラキラしたOL生活は自分とは無縁と思っている。

華がなく、同期の知り合いもいない。

小学校、中学校で特定の男の子からいじめにあっていたせいで、未だに男性恐怖症が治らず、年が近い男性が多い部署は怖い。

おじさんと二人だけの部署なら安心、という理由でガッツポーズで今の部署に異動した。


そして、警備のおじさんや掃除のおばさん、ビルメンテナンスのおじさんとの世間話が好きだった。それがまぁ、スパイ活動には物凄く役に立っている。


照代さん(掃除のおばちゃん)を見つける。

「照代さん、最近腰の調子はどうですか?」

「あらー、なっちゃん、ありがとう。調子いいよ。」

「そう言えば、最近掃除の初枝さん見てないけど」

「あら、知らないの?文句つけられて、飛ばされちゃったのよ~

ほら、10階に秘密の部屋あるでしょう」

少し話が長くなりそうなので、トイレに隠れて話す。


「(システム課のサーバー部屋ね)」

「間違えて入っちゃって、その時うっかりバケツの水をこぼしたみたいでね」

「あちゃー!」

「初枝さんは、バケツの水は絶対に機械には触れていないって言ってるけど、文句言ってきた社員がいたみたいでね。うちの会社、立場が弱いから、異動させて解決したのよ。」

掃除会社は委託している。弱い会社が折れて解決するのは良くある話だ。

「いやですね~照代さんも気を付けてね」


そう言って、奈津美は照代の肩を揉む。

「ありがとう、なっちゃんだけよ!掃除のおばさんにやさしいのは」

おばあちゃん子の奈津美は、おばちゃん、おじちゃんが好きだった。


そのまま、警備のおじさんや、社員食堂のおばちゃんから聞き取りを行う。

今日はあまり収穫はなさそうなので、早めにデスクに帰ることにした。


地下三階の「総務部第三課」と書かれている部屋の自分のデスクに戻ると、再び電話がなる。

「本日、19時からミーティングの部屋をとってほしい」

「承知しました」


これは、監査部の次長と奈津美の直接外で話したい、というメッセージだ。


いつものカフェ(個室)で落ち合う。

昼も、エレベーターの中で資料を渡した男だ。


「幸成さん!元気?」

男は、幸成俊樹ゆきなりとしき、30代後半、長身でがっしりしたスポーツ体型、大きなレンズのメガネを掛け厳つい表情、しゃべらないと怖い。

しかも、この年齢で大企業の監査部次長なのでエリート中のエリートだ。

だが、この男には秘密があった。


「なっちゃーん、元気よ!うふふ」

目からハートを飛ばして、両手を振る。

そう、会社では出来るエリート社員だが、実は心は乙女(男が好き)だった。

「今日は、エレベーターでそっけなくてごめんね~!」

幸成は泣き真似をする。


「会社では、しゃきっとしてる幸成さんが素敵ですよ」

「どうせ、なっちゃんのことだから、私と誰かを掛け合わせてるんでしょ!」

「バレたか~」

「もう、なっちゃんのBL好きは、困ったものね~」

「あ、今日はおすすめの本持ってきたのに~」


奈津美はバッグから漫画を取り出し、ニヤリと笑う。

「んまー!私から今日呼び出したのに、私のために持ってきてくれたの?」

「今日エレベーターで渡しそこねたんです」

「この先生ファンなの!なっちゃん大好き!」

そう、この二人、会社では秘密の部署に関する担当者同士で知り合いだが、さらに秘密のBL好き友達でもある。


「今日は収穫がなかったけど、明日からまた頑張りますね」

「いつも悪いわね」

「いえ、私なんて、気が利かなくて秘書もできないし、ミスが多くて事務も向かないし、今の部署がちょうどいいんです。

男の人もいなくて、気が楽だし」

「嫌な仕事をさせる部署だし、本当に助かるわ。

・・・私は平気なの?」

「幸成さんは、女性に上書きしたので平気です」

「ふふ、ありがとう、なっちゃんだけよ」

笑顔で答える奈津美に、目を細める幸成。


「ところで、来週社長の息子がニューヨーク支部から帰ってくるの知ってる?」

「女性社員がキャーキャー騒いでましたね」

「そうなのよ、高校から海外らしくて、入社後すぐにニューヨークに行って、日本に戻ってくるのよ。仕事ができて、イケメンらしいわよ~!」

「うわー!そりゃあ、秘書課とかの美女達が色めくわけですね!

争奪戦が見物だわ!」

「っでっしょー!私も楽しみよ。なんたって、未来の社長夫人の座を狙ってね。」

「コワイコワイ!」

ねー、と二人はにやにやする。


「名前は、進藤竜二しんどうりゅうじだったかしら?」


「・・・・え?」

笑顔が消える奈津美。

「なっちゃんと同じ歳だと思うわよ・・・

なっちゃん?」


・・・・・まさか、ね。


「な、なんてもないです。」


・・・小学校と中学校で私をいじめていた男の子の名前と同じだった。

同期がして、冷や汗がでる。

嫌だ、会いたくない・・・。

せっかく、高校からいじめがなくなって、なんとか普通に生活できるのに。怖い。


しかし、悪い予感は当たる。

顔を忘れるはずがない。

次の週、食堂で女子に囲まれていた、キラキラしたアイドルのような男は、小学校、中学校で、奈津美を中心となっていじめていた男だった。


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