外伝 第二幕 試合前のヤジ
俺は牢人の武居茂玄。今は平和な江戸時代。
ここはとある藩での出来事だ。疫病が蔓延した。跡継が亡くなり、断絶の危機に直面する家が多数あった。養子を迎えようにも、若い侍が足りない。
大名家では跡継が居ないだけで、減封や改易、最も厳しい処分は御家断絶が行われる。いわば幕府による、土地の確保と不穏分子の抹殺だ。
藩内で不祥事が起これば、幕府に点け込まれる可能性がある。そこで断絶されかけた家に、牢人を迎えて体裁を整える事にしたのだ。
試合などが行われ、各家の当主が認めれば、家に迎え入れられる。
なんの特技も持たない俺は、三人の女性に養われていた。いわばヒモだ。
しかしプライドはある。ここで活躍して城勤めとなり、彼女たちに楽させてあげたい。
試合の当日、朝早く城に向かう。ニート生活に慣れ親しんた俺は昼夜逆転が当たり前。早朝出歩くのはきつい。あくびも出る。
城に向かう途中、町中を通る。魚や野菜を売る威勢の良い売り子の声が響いている。
「まけるぞ、まけるぞ」
「武士の試合前に『負けるぞ』とは何事だ!」
なんて無礼な奴だ。俺は魚屋の売り子に詰め寄る。
「あんたはバカね……」
応援の為についてきた、蓉子が呆れる。
葵衣と朱莉は売り子に謝っている。
『まけるぞ』とは値引きの事だった。朝早く買い物をしない俺は勘違いをした。そして彼女たちに迷惑をかけ、更に肩身が狭くなるのであった。
この話は、江戸時代に実際にあった様です。
相手は侍ではなく、力士なんですが。