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聖女とは仮の姿ッ  作者: 夜月ジン
邪竜討伐編
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邪竜討伐

 駆け上がる勢いのまま、邪竜の住処に飛び込む。

 途端、凄まじい音圧の咆吼をあびて、首を竦めた。

 青黒い鱗に覆われた邪竜の姿は、赤雷蛇として暴れていた頃の父よりも二回りほど小さく、また、かなり細身だった。

 姿だけ見れば、美しいと言える部類だ。

 しかしその口から放たれる咆吼からは瘴気が溢れ、ビリビリと皮膚を痺れさせる。

 岩肌から無数に突き出している鉱石群が共鳴し、禍々しい輝きを明滅させていた。

 視線の先で、片膝をつきながら状況に耐えている者達がいて、息を呑む。

(セルツェ! ニフリト──っ)

 声をかけようとした瞬間、彼らを護っていた結界が砕け、その衝撃でニフリトが派手に吹っ飛ぶ。

「第一の加護・浄化!」

 即座に発動させた魔法が、渦巻く瘴気を打ち払う。

 場に一瞬満ちた浄化の光を忌避するように、邪竜が咆吼を止めてみじろいだ。

「ニフリト!」

 駆け寄ろうとしたが、手で大丈夫だと制される。

 ニフリトは杖を支えに起き上がろうとしたが、それは力を込める前に砕けてしまった。

「──くっ」

「ニフ」

「私はマールス様を治療するわ! 貴方は殿下達の援護を!」

 自分に駆け寄っている場合ではないのだと、叱咤される。

 そのおかげで、狭くなっていた視野を自覚することが出来た。

 気がつけば私が浄化した空間は何事もなかったかのように瘴気に満ち、邪竜の目が赤く輝いた瞬間、魔法で生成された無数の赤黒い槍が私に迫る。

 そのすべてがソンツァ殿下とセルツェによって砕かれたが、すかさず鋭い爪が地面ごと彼らを抉ろうと迫った。

 避けた先で鉱石が砕け、中から瘴気が噴き出す。

 邪竜が何かするたびに、吸えば肺腑を焼くような濃度の瘴気がまき散らされることに、恐怖を覚えた。

 私は平気だが、セルツェ達にとっては致命的だ。

「第一の加護・浄化!」

 己の役目を理解した私を確かめてから、ニフリトが身を起こして壁面に走る。

 その先にある岩陰に、マールス様が横たわっていた。

 遠目に、彼の状況を理解する。

 嫌な予感は、微かに聞こえてきたニフリトの声で冷や汗に変わった。

「慈悲深き女神エテルノよ、その眩しき光をここに。第五の加護・蘇生!」

 焦りと覚悟が滲む言霊に、気持ちを持って行かれそうになる。

(馬鹿、ニフリトを信じるのよ!)

 自分も駆けつけたい気持ちをぐっと堪えた瞬間、尾の一撃に吹き飛ばされたルナー殿下の体当たりを喰らう。

 痛くはないが体重がないので、一緒にすっころんだ。

「すまない! 大丈夫──」

「です、立って!」

 言葉半ばで私に持ち上げられるように立たされて、ルナー殿下が面食らったような顔をする。

「呆けてないで、来ますよ!」

 再び振るわれようとした尾はセルツェが放った氷によって地面に串刺しにされたが、代わりのように赤黒い槍が幾重にも飛来してくる。

 それらを砕き、避け、時々私は喰らいながら、ただ逃げ惑う。

(なぜ、攻撃しないの?)

 隙は何度かあったので、意図があるのだろうが、気は焦る。

 それを問う間を作るために、少し強めに浄化を発動させ、邪竜を怯ませた瞬間、ソンツァ殿下とルナー殿下が合流した。

 まるで互いの意図がわかっているかのように、なんの言葉も交わさずに互いの右手と左手を合わせる。

 そのまま、およそ人の喉から発声することは不可能だと思われる響きを持った音が、二重に紡がれた。

 瞬間、眩いばかりの雷の柱が二人に落ち、その肉体が一回り膨れ上がる。

「その、お姿は」

 狼狽気味に問うと、ソンツァ殿下が不適に笑った。

「守護精霊により、王族のみに与えられた力だ。トドメに使おうと温存していたが、技量も身体能力もお前の(・・・)方が上だろう。華をもたせてやるから、仕留めて見せろ!」

 二人の視線は、セルツェに向いていた。セルツェは微かに目を見開いたが、すぐさま頷く。

「ご期待に応えて見せます!」

「よし!」

 仲良く頷くや否や、額に紫電の角を生やした二人は地を蹴り、正に電光石火のごとく邪竜に迫った。

 危機を察してか飛び立とうとした邪竜の翼を、雷閃が焼き落とす。

 大量の瘴気を傷口から噴き出しながら、大きくバランスを崩した邪竜が大きく仰け反った。

「浄化!」

 咄嗟に叫び、瘴気に包まれかけた殿下達をなんとか庇う。

 しかし、視界に捉えた姿は既に、瘴気が原因ではないもので満身創痍だった。

 皮膚は青黒く変色し、醜く浮き上がった血管から血が滲んでいる。

(なんてこと! 強化が、肉体の限界を上回ってるんだわ!)

 まさに捨て身。わかっていての、奥の手だったのだ。

(冗談じゃない! けど)

 今は、二人がつくったその隙を無駄にしないことが先だ。

 それをとっくに承知だったセルツェはすでに飛び出しており、仰け反って晒されていた邪竜の首を切りつけた──が。

(浅い!)

 そう気づいた瞬間、飛行魔法を発動させて踏み込む。

 一瞬で脇に来た私に驚くセルツェを突き飛ばす形で退かし、首から噴き出した瘴気に代わりに突っこむ。

「ラフィ──っ」

「もう一回よ!」

 叫びながら突き抜け、えぐれる形だったお陰で存在した天井を蹴った。

 そのままの勢いで降下し、拳を緩く握る。

(ああ、まさか本当に、願った通りのことをする事になるとは)

 妙にゆっくりになった思考で、そんなことを考えてしまう。

 私の顔は今、もしかしたら笑っているのかも知れない。

 引き攣る口角を誤魔化すように奥歯を噛み締めて、邪竜の頭蓋に拳が触れた瞬間にだけ、強く握り込んだ。

 パンッ──と、想像よりも軽い音が響き、後頭部の固い鱗が弾けて大きくヘコむ。

 そのまま腕を振りかぶると、邪竜の頭は地面に落ちた。

「セルツェ!」

 叫びながらなんとか浄化魔法を発動し、場所を確保する。

 そんなことをしなかったとしても飛び込んできたであろう勢いで、セルツェが踏み込んできた。

 額を飾る赤斑の角が燐光を放ち、放出された魔力が氷で形成された剣身に吸い込まれていく。

 それは振りかぶる内に彼自身の身長を優に超える大剣と化し、今度こそ一息に、邪竜の頸を両断した。

 勢いに吹っ飛んだ頭部が鉱石群にぶつかって止まる。

 赤い瞳が、私を見た気がした。


ラシオンの守護精霊は一角を持つ孔雀のような姿をしています。名はスピシィカとイスクリツァ。

非常に好戦的で気まぐれ。気位いが高く、代々の王族は彼らの制御に大変な苦労を強いられていましたが、同じ双子であるソンツァとルナーは大変に気に入られており、協力的。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけたのであれば、もうちょっとだけ下にスクロールして、お星様を頂けると最高に嬉しいです。よろしくお願いします!

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