聖女様は邪竜討伐への参加をお望みです(2)
シュティル様の執務室の扉が見える廊下にさしかかったところで、女性が一人立っていることに気がついた。
白いローブを纏っているので、聖女だ。
綺麗な金髪を高い位置で一つに纏めている後ろ姿に既視感を覚えたところで、シュティル様が一歩前に出た。
「あら、まぁ。懐かしいお客様ね」
シュティル様の声に反応して、女性が振り返る。
顔立ちよりも、印象的な碧眼の方が記憶を刺激して、その女性の名が勝手に口からでた。
「ニフリト様」
私の声に視線で反応してくれてから、シュティル様に向き直る。
「ご無沙汰しております、聖女シュティル。急に時間が空いたので、ご迷惑とは思ったのですが来てしまいました」
「迷惑だなんて、とんでもないわ。教え子の来訪は、いつだって嬉しいものよ」
「そう言って頂けると、幸いです。先日頂いたお手紙の件につて直接お話したかったのと、あわよくば彼女に会えたらと思いまして」
「え」
言葉と共に再び視線を向けられて、思わず声が出てしまった。
「ふふ、貴方は相変わらず行動力があるわね。きっと会いたいだろうと思って手紙を送ったのだけれど、行き違ってしまったわ」
「まぁ、申し訳ありません」
恥じらうように口元を手で覆ったニフリト様に微笑んでから、シュティル様は執務室の扉を開けた。
◇ ◇ ◇
シュティル様の紅茶コレクションから、どれを楽しもうかと三人で吟味していたところで、窓をコツコツとつつく木彫りの小鳥が現れる。
シュティル様が窓を開けると、小鳥はふわりと羽ばたいてその手に停まった。足に結ばれていたリボンを解いて、そこに書かれているらしい文字を目がなぞる。
「あら、ラススヴェートね。こちらからの連絡を待たずに受け取りに来るなんて、せっかちだこと」
「私が正門でお待ちしますよ。お二人はゆっくり……」
ここは私の役目かと名乗り出たが、シュティル様は首を左右に振った。
「聖女ニフリトは、貴方と話をしにきたのよ。時間も限られているようだし、先に二人で話していて。お茶とお菓子は好きにして結構よ」
「え」
「お心遣い感謝します」
戸惑った私の隣で、ニフリト様が頭を下げる。
シュティル様は一度頷いてから、執務机に私が置いたばかりの箱を手に取り、部屋を出て行ってしまった。
「私が選んでも?」
「あ、はい!」
まだここでの勝手がわからないので、頷く。
ニフリト様は慣れた手つきで茶器や小皿を用意し、あっという間にお茶の準備を整えてくださった。
「すみません、手伝いもできず」
「いいのよ。出来る者が出来ることをする。当たり前のことだわ」
「はい」
「さ、まずはお茶をどうぞ。実は今回淹れたのは、私のお気に入りなの。是非味わってみて」
「いただきます」
向かい合わせでソファに腰かけ、妙な緊張を感じながらカップを手に取る。
温かな湯気を香りとともに吸い込むと、微かに甘酸っぱい香りがした。
(林檎かしら)
どこかほっとする香りに、自然と肩の力が抜ける。私は赤味の強い綺麗な液体を、そっと一口含んだ。
「わ、すごく美味しいです」
「でしょう? 乾燥させた雪林檎の皮がブレンドされているの。たっぷりの蜂蜜とブランデーを一さじ足すと、もうたまらないわよ」
「絶対に美味しいやつじゃないですか」
笑顔で差し出された瓶を受け取り、とろりとした蜂蜜をたっぷりと落とす。
「ブランデーがないのが残念ですね」
「あるにはあるけれど、あれはシュティル様の秘蔵の一本だから、戻って来てからおねだりしましょ」
「ふふ。はい……その、改めて、ご挨拶させてください」
甘みが加わった紅茶を一口味わってから、私はティーカップをローテーブルに置いて姿勢を正した。
「ラフィカ・イエインと申します。私もお会いしたかったので、こんなに早く再会できたことを嬉しく思います」
「ニフリトよ。貴方が私と同じ気持ちでいてくれて嬉しいわ。よろしくね、ラフィカ」
笑顔と共に差し出された右手に右手を重ねると、ぎゅっと握り返される。
女同士の握手にしては力強いそれに驚くと、ふふっと笑みが耳に届いた。
「ああ、ごめんなさい。他意はないの。ただ、やっと会えたと思ったら緊張してしまって」
「そんな、緊張なんて……私のほうがめちゃくちゃしてます!」
思わず前のめりになって告げると、ニフリト様は少し顎を引いてから、再び笑う。控えめな笑顔なのに、顔の作りが華やかだからか、ぱっと周囲が明るくなるようだ。
「緊張してもらえるだけの、品位を見せられていると思うことにするわ」
それはもう、バッチリなやつだ。
(貴方の所作の美しさが、受けた教育の上等さを物語っています!)
家名は誰にも教わっていないので知らないが、間違いなくニフリト様は貴族だし、相応の爵位をもつ家の娘だろう。
態度が柔らかいのは、私を萎縮させないためにそう振る舞ってくれているに過ぎない。
(かつての私は、これが苦手だったのよね。お前は目力が強すぎると、何度もお母様に叱られたっけ)
「そうそう、聖女が名乗るときは、名前だけでいいのよ。たとえ先に名乗った方が、階級や家名を名乗ろうともね」
思いも寄らぬ教えに、意識が過去から引き戻される。
「身分が上でも……ですか?」
「ええ。たとえ相手が王族であってもね。家名は聖女が聖女として敬われる上で、不要なものだから」
告げながら向けられる笑顔に、謎の凄みがある。
ようは、平民の聖女を下にみる阿呆を少しでも減らす意図もあるということなのだろう。
「……なるほど」
(でも、騎士や聖女はたいていが貴族だし、顔見知りや有名どころは名乗るまでもなく家名がバレるわよねぇ)
それはそれ、ということなんだろうが。
ラススヴェート様と再会したとき、彼が名前しか名乗らなかったことが頭の隅で気になっていたので、ようやく謎が解けたのは嬉しい。
彼の場合は、逆──聖女となったばかりの私が、貴族相手に萎縮しないようにと、気遣ってくださったのだろう。
「ちなみに、聖女同士も同じよ。私たちの間に身分差は存在しないわ。だから、私のことを様付けで呼ぶ必要はないのよ?」
「いえでも、単純に目上の方は敬いたいというか」
「あら、年増だといいたいの?」
わざとらしく眉間に皺を寄せて、じっと見つめられては降参するしかない。
「ニフリト……さん」
「さんもいらないわ。敬語もよ」
「うっ」
侯爵令嬢だった時の記憶があるせいで、立場の違いによる抵抗感が凄い。
(よほど運命的な出会いをして友情を育んだのでなければ、平民に名を呼び捨てにされるなんて、過去の私だったら絶対に許せないわ)
けれどニフリト様は、同じ聖女だからというだけでそれをお許しになっている。
懐の広さが違うのか、十三から今までの聖女生活によって馴染んだのか。
どちらにしても、そう呼べと望まれたなら、呼ばないほうが失礼だ。
(よし、いいわ。わかった。聖女として振る舞うときは、侯爵家の令嬢の気分でいこう)
そうすれば、抵抗なく彼女の名も呼べる──気がする。
「わかったわ、ニフリト」
「ええ! ええ。そうよ! よろしくね、ラフィカ!」
開き直って呼び捨てた瞬間、ものすごく嬉しそうに微笑まれて、ちょっと赤面してしまう。
それほど、可愛らしい笑顔だったのだ。
美人が不意打ちでみせる、可愛いの威力はえぐい。
(というかこの喜びようで察してしまったわ。ニフリト様。いいえ、ニフリト、貴方……対等な友達が少ないタイプね!?)
なんというか、本人は間違いなく対等であろうと振る舞っているのに、オーラがありすぎて周囲から一歩引かれてしまう類いの匂いを感じる。
(そう、それはまさに──かつての私!)
慕い、敬ってくれる者達は沢山いるのに、何故か隣に並んでくれる友人がいないのだ。
孤高。理不尽な孤高!
(ああ、そうか。私たち、友達になれるかもしれないのね)
今更のように、その可能性への喜びで、私の心も浮き立つ。
過去の私が得られなかった絆を、聖女という立場が叶えてくれるなんて思ってもいなかった。
「嬉しいわ。ずっと誰かに、親しげに名前を呼んで欲しかったの。できれば──その、貴方が噂で私の家のことを知っても、そのままでいてもらえたらと願うわ」
笑顔。間違いなく笑顔だが、先ほどのような鮮やかさがない。
(どういう意味かしら? わけありな家名を嫌ってる……?)
単純にそう思ったが、すぐに脳内で否定する。
どこか悔しそうなこの眼差しは、己の家名を誇りに思う者のそれだ。
(他家に貶められたのかしら。そういう後ろ暗い争いを好む国柄ではないから、謀略的な事件は少ないはずだけれど。よほど巧みにはめられたのかもしれないわね)
それならば、さぞ悔しかろう。
「不安なら、真偽の怪しい噂が私の耳にはいるより先に、貴方の口から語ってしまっては? 話す言葉が真実か嘘かを見抜く自信はあるわよ」
「……そうね。次の機会に、その話ができたらしましょう。今はそれよりも、貴方に祝福の言葉を。ようこそ、聖女ラフィカ。新しい仲間を、私は心から歓迎します」
一瞬よぎった迷いの表情が気にはなったが、真実と胸の内を語るには、私はまだ足りないのだろう。
当然といえば当然なので、私は素直に、かけられた祝福と歓迎の言葉に頭をさげた。
信頼は、これから少しずつ育めばいい。
「ありがとう、ニフリト。後覚醒だから戸惑いは多いけれど、立派に役目を果たせるよう頑張るわ」
「大丈夫よ、貴方はきっと素晴らしい聖女になるわ。いえ、もうなっている。そうでしょう?」
言いながらニフリトは、私の目を覗き込むように見つめてきた。それは数秒を経て、ソファ脇に立てかけられていた聖杖に移る。
魔力を消費したことで腰帯に携帯できるようになったが、座るには邪魔なので外して置いていたのだ。
「ウートラの聖杖が、貴方を選んだのだもの。間違いないわ」
「……あ。ええと、今のところは、そうみたいね」
そうだと断言できなかったのは、膂力でごり押ししている後ろめたさからというより、ニフリトの複雑な表情に躊躇ったからだ。
悔しさと、諦め。けれど、まだ手を伸ばしたいような、複雑な表情。
その感情はあまりに身に覚えがありすぎて、胸詰まされてしまう。
「まぁ、謙虚ね。けれどそんな心構えでいると、奪われてしまうわよ」
「より相応しい聖女であるならば、喜んで」
碧眼を正面から見つめて即答すると、ニフリトは微かに目を見開いた。
同時に、ふはっと声を出して笑う。
そのことを恥じるように、口元を手で覆った。
「いやだ、とんだ誤解だったわね。安心したわ」
「安心? なにか、私に対して不安を抱いていたってこと?」
「不安というか、心配ね。聖女様と敬いながらも、言葉巧みに私たちを利用しようとする腹黒はわんさかいるの。王も、学院も、協会も──そんな連中から私たちを護ってくれるけれど、万能ではないわ。だから、一番大事なのは自衛なの。揺らがずに、自分の意思を伝えられることは大事だわ」
そこまで言われたことで、ただ本心から言った言葉がめちゃくちゃ不遜な意味として伝わっていることに気づかされる。
「ちょっと待って、誤解だわ! 言葉通りの意味であって、奪えるものなら奪ってみろって言ったわけじゃ!」
私が慌てて訂正を口にした途端、今度は両手で口元を覆う。
「んふっ。いやだわ、口を開けそうになるほど笑わせないで。私は聖女であると同時に淑女でいたいのよ。困ってしまうわ」
いや、笑わせようとしてないんですが。
ラススヴェート様といい、ニフリトといい、笑いの沸点低すぎでは?
「ふぅ。もう、本題からどんどん逸れてしまったじゃない」
「え、私のせいじゃなくない?」
「んっふ! ああもう、ふふっ……も、なんでそう、素直に……くふっ。だめだめ! 切り替えるのよ私!」
本来であれば頭の中で言うべき言葉をあえて口にして、ニフリトは強引に自分の気持ちを切り替えたようだった。
んっと小さく咳払いをし、改めて私に向き直る。
「聖杖を譲られているということは、魔力測定もどきは済んでいるということよね?」
もどきという一言が、ニフリトの聡明さを物語る。
何も説明されずとも、聖杖による魔力測定がどういう意図を持って行われていたのかを察していたのだ。
(だからこそ、選ばれなかったことを悔しく思っているのね)
その失望によって自信を無くすことを恐れて、シュティル様は意図を伏せていると言っていた。
けれど十三歳だったニフリトは、察してしまったが故に自力で前を向いたのだ。
その精神力足るや、尊敬に値する。
王立騎士団の第三部隊に同行していた事実が、彼女の努力を物語っていた。
「ええ。皆と同じ流れで、込めた魔力で聖石も生成したわ」
「そう。それを確かめたかったの。率直に聞くわ。聖杖に込めた魔力で生成した、聖石の大きさを──いえ、大きさだけじゃないわね。尋常じゃないほど厳重に、箱が封印されていたもの。魔法だけじゃなく、物理的にも」
シュティル様が運んだ箱がそれだと確信した上で、推測を口にする。
質問の途中で考え込んでしまったニフリトを見つめながら、とても頭の良い人なのだなと、感心してしまった。
「ニフリト?」
「ごめんなさい。ええと、改めて聞くわ。貴方が聖石を作るのに使用した、鉱石の種類と大きさを教えて欲しいの」
特に口止めはされていないので、私はすぐに頷いた。
「目測ですが、一片が五センチほどの立方体に加工された、ダイヤモンドです」
「それが必要だと、ラススヴェートが用意したのね?」
誰が用意したのかまで当てられて、ちょっと驚く。
「はい」
「……そう。答えてくれてありがとう」
ニフリトは一つ嘆息してからティーカップを持ち上げると、おもむろに中身を飲み干した。
首を上に傾けるままソファの背もたれに上体を預けて、天井を睨む。
「ダイヤモンド。それも五センチ角。──防護結界を数ヶ月は五重にできるわね」
ぶつぶつとなにか呟いてから、唐突に体を起こす。
ニフリトはそのまま前のめりになりつつ、手にしていた空のティーカップを私に突き付けた。
「さすがに確信したわ。協力なんて奇跡は起きてない。あの騎士に蘇生魔法を施したのは貴方よ」
「……え?」
「シュティル様のお考えを聞いたとき、そうだったのかも? と思ってしまったけれど、やはりあり得ないわ。私はあの時ひどく冷静さを欠いていたし、魔力も底をつきかけていた。どう考えても、あのとき発動した魔法に私の影響はない」
「だけど、私はあの瞬間に覚醒したようなもので、神聖魔法の使い方なんて……」
「そう、あの時、なんの知識もない貴方が蘇生魔法を施すなんてあり得ない。あり得ないから、シュティル様も私も、納得できる筋書きを無理矢理考えてしまった。神聖魔法が決して干渉しあうことはないと知りながら、よりどちらがあり得ないかという心理で、事実をねじ曲げてしまったの」
真剣な顔で告げながら、ニフリトは静かにカップをティーソーサーに戻した。
「人間の心理って、怖いわね。あり得ないと思い込むことの恐ろしさを、身をもって体験してしまったわ。貴方が蘇生魔法を施したと考える方が、矛盾はないのにね」
「……納得できないような、そうでもないような」
そうとしか考えられない。そのほうが矛盾がないと言われてしまえば、私には否定する要素もない。
「でもそれが本当なら、シュティル様にもお話しして、訂正しておくべきよね。協会にも報告がどうとか言っておられたし」
「それよ。そう──本題はここからなの」
すっとニフリトが立ち上がり、何故か私の隣に移動してくる。
密着する距離で座られて驚いていると、仰け反った体を逃がさないと言わんばかりに、両手を纏めて握られた。
「ニフリト?」
「この話。そのままにしてもらえないかしら」
「え?」
「どうせ二度と同じ事が起こらなくても不思議ではない出来事だもの、協会も長く検証しようとはしないはず。私に、貴方の補助で蘇生魔法を発動させたという実績をちょうだい」
切実で、野心に満ちた瞳。
ニフリトには、何か強く願っていることがあるのだ。
それを叶える為に、手段を選べないほどに。
(ああ、彼女を知る度にわく、この気持ちはなんなのかしら)
彼女はどこまで、私と似ているのだろう。
「……そう願うなら、なぜ真実を私に? 煙に巻いてしまえば、それで済んだのに」
「何度もそう思ったけれど……あの時、私を励ましてくれた貴方の瞳の輝きが目に焼き付いて離れなかった。なぜかしら、貴方に軽蔑されることだけはしたくないと、強く思ってしまったの。目的のためなら、ありとあらゆる手段を使うと覚悟して、ここまで来たのに──。おかしいわよね」
そう言って自嘲するニフリトを、私はどんな気持ちで見つめればいいのかわからなかった。
私が彼女に感じるものがあるように、彼女もまた、私に何かを感じているのかもしれない。
「……嘘は、嫌い。本当に、大嫌い」
それを真実としたいあまりに現実から目を逸らし、嘘を信じてしまった前世の私の愚かさを、思い出すから。
(だけど──何故かしら。私はニフリトに、協力すべきだわ)
理由がさっぱりわからないがそれだけは確信できて、私は思わず眉間に皺を寄せてしまった。
その仕草が拒否として伝わってしまったらしく、痛いほど私の手を握っていた手が離れる。
私は慌てて、それを掴みなおした。
「待って、違う。私は、嘘が嫌いだと言っただけよ」
「何が言いたいの?」
「順序が逆でもいいという意味よ。ニフリトがいつか、蘇生魔法を扱えるようになるなら、真実になるもの」
「私に、蘇生魔法を使えるようになれと……?」
「ええ。もちろん、命と引き換えにしての発動ではなく、何度でも、誰かを救う手段としてよ」
「……なんて無茶を言うのかしら。けれどええ、わかったわ。私は私の願いのために、どんな無茶も通すと誓ったの。必ずなんらかの手段を見つけて、実現させてみせる」
潔い言葉と、意志の強い瞳。
なんて好感の持てる女性だろうかと、嬉しくなる。
「契約成立ね。あの時の真実は、私とニフリトだけの永遠の秘密」
「……ええ。ありがとう」
何度もありがとうと言いながら、ニフリトは私の手に額を押し当てた。
「この実績があれば、私は邪竜討伐に参加出来る。そこで活躍すれば、きっと──」
「えっ」
「え?」
思わず大きな声を出してしまった私に、ニフリトが顔を上げる。
少し潤んでいる碧眼と視線がぶつかった瞬間、私は握ったままだった彼女の手を、更に強く握ってしまった。
「邪竜を倒すのは私よ!?」
「へっ」
ニフリトが、間抜けな──と言えるほど素の表情になる。
そのことで、私は私の勘違いに気がついた。
「あ、えと……ごめん、忘れて」
私は本当に聖女としての自覚が足りない。