第004戯 勇者資格制度
「魔物退治に行ってくるよ」
今日も息子達が勇ましく出かけていく。
腰には刃渡り1m近くある大きな剣。一昔前までは6cm以上で銃刀法違反になったのだから時代は変わったものだ。
「昨日は2匹退治したんだぜ」
次男が自慢げに剣を掲げて笑う。
「そうか、ならあと3匹だな」
成年になるまでに魔物を10匹倒すと、国が定めた『勇者』の資格が得られ、進学や就職に有利になるのだ。
逆に少数の魔物しか退治できなかった若者は、碌な仕事につくことができずに生涯社会の底辺で苦労することになる。
すっかりと逞しい体つきになった息子達を見送りながら、俺は複雑な気分だった。
最近一層と角質化してきた手でテレビのリモコンをつかむと、ここ数年で随分と尖ってきた指で操作する。
『本年度の社会保障予算は三十兆三千七百億円。うち年金が十一兆円、医療費が十兆円、介護費用が三兆円……』
テレビは憂鬱なニュースを垂れ流していた。
『しかし高齢者福祉関係の予算は、削減の一途を辿っています。これは勇者資格制度など政府の思い切った政策が功を奏しているといった評価と共に、諸外国からは人権を問題視する……』
高齢者予備軍の俺にはあまり聞きたくない話題だ。
なにしろ需要が延びすぎた。医療の進歩のおかげで、今の日本の平均寿命はおよそ180歳。一昔前まで老人福祉で国庫は破綻寸前だった。
だがポピュリズムと人権重視の思想から対策は一向に進まず、この国はデフォルトを起こして崩壊までが心配されていたのだ。
だが、その頃流行しだした新種の疾病が状況を一変させた。
およそ150歳を超えた年齢の老人にだけ発症するその病は、次第に肌を緑色にして角質化し、爪は尖り、腰は曲がって身長は低くなる。
やがて病状が進行すると耳は大型化して先が細くなり、目つきはぎょろりとして真っ赤に光るようになってしまう。。
そして末期になったその姿は、まるでファンタジーの魔物『ゴブリン』そっくりになり、最終的には脳も犯されて世間を徘徊するその老人達を、人々は『魔物』と呼ぶようになったのだ。
「俺もそろそろ仲間入りかな」
「よして下さいよ、まだ若いのに」
妻はそう言ってくれるが、俺ももう147歳。もうすぐ魔物の仲間入りだ。
この病には全くといっていいほど治療法が無く、徘徊して勇者見習いに退治されても家族は提訴する事も出来ない。
それどころか国から報奨金まで出る制度まで完備されているのだ。
一説には政府が開発して蔓延させたというこの病気。しかしそのおかげで慢性的な財政赤字、ひいてはこの国の崩壊危機は解消されようとしていた。
口さがない人々は、この制度をまるで中世を舞台にしたゲームのようだと揶揄する。
魔物を倒してゴールドと名誉を得る。
RPGじゃ当たり前のことなんだろう。
「でも、あの子だけは心配ねぇ」
次男、三男と違い、あまり出来の良くない長男を妻はいつも心配している。
長男はもうすぐ成年になるというのに、まだ2匹しか魔物を退治していないのだ。
「しかたないさ。こんな世の中なんだから」
俺はもう口癖になった台詞を自嘲気味に呟く。
「だが、俺が魔物になったら、あいつに退治させてやってくれよな。俺一匹では焼け石に水かもしれんが」
初期パラメータが低いキャラや、育成に失敗したキャラは簡単に消去される。
それもRPGでは当たり前のことなのだ。
ブクマ・評価を頂けましたら大変励みになりモチベが高まりますので、少しでも興味も持って頂けましたら是非ともよろしくお願いいたします。